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写真を楽しむことで 前向きに、生きる力を育む

07.31.2011 · Posted in Interview

NPO法人 日本写真療法家協会 理事  新堀 いづみ さん

●”撮りたいときに撮る”を大切にした活動

「構図やピントは、関係ない。写真を撮る人の気持ちを大事にしたい」。

新堀いづみさんは、看護師としてホスピス緩和ケア病棟に勤務をしながら、患者との関わりのなかで、写真を介してのコミュニケーションにさまざまな効果があることを実感し、フォトセラピーの可能性を探っている。

勤務中はポケットにカメラを入れ、患者さんに渡し、”撮りたいときに撮る”を実践しながら、患者やその家族、スタッフに、病院のなかで働いている看護師だからこそできる方法で写真の楽しさを伝えている。また、別の病院や外部講座では、日本写真家協会のファシリテーター、ボランティアスタッフとしてワークショップを開き、写真療法の良さや理解を広める活動を行っている。

●写真は気持ちを表す

新堀さんは、高校卒業後、准看護師の資格を取得、横浜の総合病院に勤務したが、「患者さんとの人間同士のふれあいは二の次で、治療だけを第一義にする機械的な日々が堪えられなくて」と4年で辞職。結婚し、2人の子どもをもうけた後、やはり医療の職場で働きたいと看護学校に通い、看護師資格を取得。ホスピスナースとして、緩和ケア病棟に勤務を始めた。

その頃から写真は趣味であったが知人のカメラマンに本格的な写真技術を学ぶなか、自分自身の気持ちが変化していくことを漠然と感じていた。写真表現大学にセルフフォトセラピー講座があるのを見つけて受講。フィルム1本分の36枚、撮影のための技術的なことは教えられないなか、自分が気になったものをひたすら撮る。撮影した写真を撮った順に並べて、気になった理由をグループで話しあう。

「途中、全く撮れなくなってしまう人もいましたが、撮ってこなかったからと言って誰も責めない。なかには、ゴミばかり撮影する人もいたけれど、そういう気持ちを大事にしよう、と。気持ちを表現しようと思って撮影するから、気持ちが変わると写真も変わってくる。とにかく楽しかったですね」。

大阪の病院に移り、看護師として次のステップを考えたときに、認定看護師か写真療法のファシリテーターの資格を取るか悩んだ。「患者さんとの関わりを深めるために、セラピー系の何かを勉強したいと思っていた。認定看護師になると認定看護師としての仕事として教育や講演活動などが増え、患者さんからどんどん離れていく。それは嫌なので、写真療法を選びました」。


母親が起き上がったときにいつでも家族を感じられるようにと娘さんが壁一面に貼った家族写真。

●生きる力につながる

病院では、常にカメラをポケットに入れ、プリンタを常備し、写真を撮り続けられる環境を作った。撮った写真はすぐにプリントして患者さんに渡したり、ナースが桜吹雪などを飾りつけてから渡すこともある。

「写真は、撮ろうと思ったときにしか撮れない。痛かったり辛かったりしたら写真を撮ろうなんて思わない。興味を持ったからシャッターを押す。撮ろうと思った心の動きがとても大事。それが、前向きに生きる力につながるんです。『ナースコールを押せたら、シャッターは押せるんだから』といつも言っています」。

横浜でホスピス緩和ケア病棟に勤務時から、通勤途中の写真を撮影して「横浜の駅前、今日はこんなだったよ」、病院の屋上に上がって「今日の空はこんな色をしてたよ」と患者に渡した。外に出られない患者にとって、写真は社会との唯一のつながりでもある。また、写真1枚で話も弾み、コミュニケーションに大切な存在になる。

最近は携帯電話を持って入院する患者が多いため、携帯電話のカメラで気軽に撮れる。「緩和ケア病棟にあるテラスの花を摘んで持って行くと患者さんが『携帯で撮って孫に送るわ』という。誰かに見せたい、伝えたい、共有したい。そういう気持ちをすぐに目で見ることができるのが写真の素晴らしいところだと思います」。


お見舞いに来られた奥さんが夫である患者の手を握っておられる写真。

●写真療法の趣旨を理解してほしい

ワークショップは、一般の他、子ども病院の院内学級やフリースクール、ホスピス緩和ケア病棟、高齢者施設、知的障害者施設などで行われている。時間は、2時間〜3時間。最初の40分間は公園など外での撮影、プリントアウトした全写真を大きなテーブルに広げて、自由にスクラップブッキングし、できたものを発表するという流れだ。スクラップブッキングのベースの紙は30cm×30cmの大きさを使うのが原則。長方形だとそのなかに収めようという心理が働くが、正方形だと広がるように作るため、あえて正方形を使う。

「子ども達の作品は、紙から思いっきりはみ出すけれど、それはそれでOK。ワークショップにくる男性は最初『できないです。こんな、恥ずかしい』といいつつ、とても繊細な作品をつくるんですよ」。高齢者のワークショップでは和風の素材を準備したり、あまりはさみを使ったりしなくてすむような配慮をします。写真もスクラップブッキングも基本は自由なんです」。

ただ、写真療法家協会のファシリテーターには、スクラップブッキング講師や写真家など色々な背景をもつ人がいる。しかし、クラフトとしてのスクラップブッキングや写真技術を教えるのが写真療法ではない。

「時々『こういうふうに作ったのは、どういう意味があるんですか?』と分析を聞きたがる人もいるんですが、私は写真や作品に対する心理的な分析や指導を行わないという写真療法家協会趣旨に賛同して活動をしています。活動の趣旨を理解し、本当に必要だと思って楽しんでくれる人が増えてくれればいいんですが」と苦笑する。


「ファミリーアルバム」と言うタイトルでのワークショップの際の作品。スクラップブッキングの素材を用いて、テーマにそった作品を仕上げ、思いを表現する。

●相手を思う、優しい関係

新堀さんは、今後ナースのための写真療法講座を始めることが目標だ。
「病院で写真療法をやり始めると、スタッフは、作品作りに没頭することで気分転換ができます。そしてまた厳しい仕事にも集中ができ、仕事にメリハリがつくし、患者さんや家族が喜んでくれるのでモチベーションが上がる。スタッフ同士で、『こんなの作ったらどう?』と声をかけあうようになり関係が優しくなるんです。相手に渡すということは、喜んでもらうために相手のことを考えないと作れませんから」。

患者の誕生日には、スタッフ全員で作成する場合もあり、アルバムなど大作を作るときは、時間もかかるし、それだけ思い入れも入る。患者の孫にメッセージカードを作ったりサプライズプレゼントをつくったり。「コミュニケーションも増えるし、お互いにも、自分自身にとっても癒しにもなりますし、アイデアを考えることは自立心や創造力もつきます。とにかく、もらうほうも、作るほうも、楽しいというのが魅力ですね」。

この4月に職場を移った新堀さんは、新たに勤務する病院でも写真療法を定着させようと試みている。「病院のなかで行うには、上司に理解がないと難しい。プリンタや材料費など経費もかかるし、仕事が忙しいなかで作業が増えるので、心の余裕、時間の余裕がないとできません。まず、スタッフがやってみて、良さを実感してもらわないと」と意気込む。

協会のメンバーが、写真療法は高齢者の脳の活性化の研究において効果があるというデータをもとに、日本認知症ケア学会で学術発表を行っている。

さまざまなストレスの多い社会にとって、写真で癒され、よりよい関係が増えることに、デメリットはない。デジタルカメラや携帯カメラなど撮影が手軽になった今、健康にも人間関係にも治療にも効果のある《生きる力を育む》写真療法が、正しく普及されることが望まれる。

新堀 いづみ さん
NPO法人 日本写真療法家協会(http://www.shashin-ryoho.jp/)理事。
2005年 写真表現大学、セルフフォトセラピー講座受講、 2006年、日本写真療法家協会入会。2008年、同協会ファシリテーター受講、2010年より同理事。
18歳で准看護師免許取得、33歳で看護師免許取得。山本記念病院訪問看護ステーション勤務時代に在宅ホスピスを学ぶ。その後横浜甦生病院緩和ケア病棟勤務、2004年より京都・薬師山病院、大阪・小松病院ホスピス緩和ケア病棟勤務を経て現在は京都、あそか第二診療所(あそかビハーラクリニック)病棟師長として勤務中。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2011年7月号に掲載されたものです。

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