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自然からの享受を見直し 災害から暮らしを考え直す

10.17.2011 · Posted in Interview

NPO法人 日本エコツーリズムセンター理事・事務局長 中垣真紀子さん

●エコツーリズムを推進

「自然のなかで頑張っている人を応援しよう!地域を元気にしよう!という目的でエコツーリズムを活性化するための活動をしています」。

中垣真紀子さんは、2007年に発足したNPO法人日本エコツーリズムセンター(以降、エコセン)で、エコツーリズム、自然体験活動、環境教育の第一人者である日本各地のメンバーを支援するとともに、東京と神戸で月1回開催する「エコツアーカフェ」や、エコツアーガイド養成、地域コーディネーター養成といった人材育成の他、シンポジウムやWEBマガジンによる情報発信などエコツーリズム普及のための活動を行っている。


「エコツアーガイド養成講習会」は、エコツアーガイドとして必要なノウハウを各分野の講師陣から2泊3日で学ぶことができる。

 

● 暮らし方、働き方の概念

中垣さんは、NPO法人日本エコツーリズム協会の職場で、2008年にエコツーリズム推進法が施行され、自然体験を取り入れたツアーのニーズの高まりを感じるなか、にもどかしさを感じていた。

「地方には小規模でも、素晴らしい自然活動をしている人がたくさんいる。地方のエコツーリズム団体とのつながりを強化し、地域環境に配慮した地域活性化を図りたい」という思いで仲間とエコセンを立ち上げた。各地で自然環境の保全に配慮した環境教育や地域づくりを行う世話人とともに、個人や小さな活動を支援しつつ、ネットワークを広げエコツーリズム推進をめざした。

昨年実施した農水省の補助事業「田舎で働き隊!」は、エコセンが架け橋になって、都市部から地方の自然学校に研修生を派遣して田舎を体験してもらうプログラムだ。2カ月〜半年間、現地に住んで体験し、その事業が終わっても定住して欲しいというのが国の目標。場所の選定、人選、派遣、現地でのプログラムはエコセンのネットワークで準備した。

「田舎に住みたい人は、たくさんいる。でも、都会の人は『食っていけるかどうか』で迷う。9時〜 5時まで働いて毎月給料を受け取る都会の水準を求めるのは、田舎では無理。自然相手で天候はわからないし台風だってくる。しかし、田舎で土地があれば自給自足はできるし、現金はそれほど必要ない。暮らし方次第で、十分幸せに暮らせるはずです」。

専業でなくても暮らせる方法はある。『食っていける』概念を柔軟に考えられるか、会社での働き方から価値観の転換ができるかどうかがポイントだと中垣さんはいう。

 

●自然相手の仕事はクリエイティブ

昨年度、エコセンは全国の自然学校調査を行った。国立自然の家のような大規模なところから、『トヨタ白川郷自然学校』のような企業主体、『くりこま高原自然学校』などの従業員20 〜 30人規模、夫婦や1人で環境教育プログラム、エコツアーを実施しているところまであわせると、3700もの自然学校が存在するという。

岐阜県郡上市のNPO法人『メタセコイアの森の仲間たち』は、長良川遊びや洞窟探検などの自然体験活動を提供する。以前は、夏のキャンプで多くの子どもたちを受け入れるのがメインの活動だったが、オフシーズンの活動のために、罠猟の資格を取得してイノシシ猟をするなど、新しい活動を模索している。

「田舎では、シーズン毎に全く違うライフスタイルを考えられるし、月ごとの変化もある。自然や地域の営みを源にして仕事を見出す、とてもクリエイティブな仕事です。ただし、自然について十分知識がないとその良さをアピールできないし、ただ知ってもらうだけでもダメ。毎回同じプログラムをやるわけにもいかず、楽しませないとリピーターにつながらない。自然を熟知し、いろいろな視点を持っていないとできませんが、本当に自然が好きな人は、知恵を絞るのも工夫するのも、どんどんアイデアが出てくるようです」。


「エコツアーカフェ」は、東京では毎月第一木曜日に開催。昨年11月には、土佐で現代版湯治の湯「海癒」を経営する岡田充弘さんが、その魅力や生き方について語った。

 

●災害から学び、必要な支援を行う

災害後の姿からも自然の素晴らしさについて得るものは大きい。
「2008年6月の岩手・宮城内陸地震の際、エコセンのネットワークのひとつである、『くりこま高原自然学校』は甚大な被害に遭い、被災したスタッフは避難所で暮らしながら地域の人たちを支援しました。人的被害は大きくありませんでしたが、山が落ち、自然の威力を目の当たりにする光景ができあがりました。この凄まじい崩落現場を見せ、被災者から話を聴く、震災エコツアーを7月から始めたんです」。被災から復旧、復興していくプロセスを一泊二日のコースで、現地スタッフが案内した。

今回の東日本大震災直後、エコセンは世話人たちと『RQ市民災害救援センター』を立ち上げ、野外教育や自然体験活動で培ったスキルを活かし、公的支援が届きづらい小規模の避難所を中心に支援を行っている。「6月末までのボランティアは現地で延べ1万2,075人、東京1,495人、支援金は7,000万円を超えた」。

「エコセンの代表は、阪神大震災時に支援を行い、新潟県中越地震のときには、ボランティアセンターを川口町で最初に立ち上げました。エコセンのネットワークの多くが、拠点を農山漁村において活動しているため、自然との接し方、自然のなかでの振る舞いがわかる。ネットワーク力、チームワーク力、サバイバル能力が高いので、災害時に必要なスキルを持ちあわせている人が多いのです」。

特に東北は地域性が強く、外部の人間が入るのが難しいエリアだが、エコセンのメンバーは、日頃から地域に住む人たちを先生に農業体験や生活文化の伝承などを通じた交流を行っているため、コミュニケーションがとれていて、行政にはできない、現場に合った支援ができた。

宮城県沿岸部120kmに支援物資を届けることから始め、現在は4カ所に拠点を起き、片付けや泥かき、心のケアなどの支援を行っている。今後、各拠点を段階的に自然学校のようなスタイルで支援をしつつ、地域の人とコミュニケーションをとりながら環境教育プログラムやエコツアーを実施する予定だ。


6月30日、東京・国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された「RQシンポジウム」では、ボランティア活動の様子や支援金など活動についてのデータを発表。

 

● 災害から自然を見直す

今回の震災は、長期的な支援が必要とされるなか、自然とのつきあい方、災害時の支援、暮らし方など、さまざまな課題を提示している。

「東北沿岸部は過去何度も津波被害にあっており、『ここから先に家を建てるな』という石碑や言い伝えがあった。そんな日常で大切にしていた昔からの価値観や視点を忘れ、自然から離れすぎていた生活をしていたことを気づかせてくれた。今回は、原発事故でエネルギーについても考えるきっかけになっていて、普段からの価値観、生活観、視点を見直す、いい機会になっていると誰もが感じていると思います。このチャンスを無駄にしないで欲しい」。

日本は、地震や水害を含め災害の多い国であることを、多くの日本人が見過ごしていたのではないか。自然から享受されるものの再認識は、この震災の大きな教訓でもある。地域をつくり、コミュニティを育て、人と人をつなげていく仕事をしてきたエコセンとして、「我々が普段考えていることを、今、多くの人に伝えていくことが大切だと感じる」と中垣さんはいう。

都会は災害にもろく、自然あふれる田舎がなければ、食べ物も水もエネルギーもつくれない。現金を持っていたところで、店頭になければ何もできない。水や食物がどこからきているか、エネルギーがどのように生み出されるかも知らないまま、都会だけで自立して生活をしていけるというのは幻想である。

「すべてはつながっている。今までの間違ったやり方に気づいて修正していかないといけない」という中垣さんの言葉は、とても重く響いた。国は、行政や政治家やマスコミがつくるものではなく、ひとりひとりが今、住んでいる環境で考えながらつくりあげた暮らしによってできていくものではないだろうか。

 

中垣 真紀子さん
NPO法人 日本エコツーリズムセンター(http://www.ecotourism-center.jp/)理事・事務局長。
高校時代はアメリカへ、大学はスペインへ留学。卒業後、コスタリカで環境保護活動、オーストラリアでのワーキングホリデーでは、 エコツアーオペレーターの経験をつむ。帰国後、旅行会社を経て、 エコツーリズム推進団体事務局に勤務し、人材育成やイベント、環境省のエコツーリズム推進事業などに携わる。現在、講演、テレビ・ラジオでのエコツアーの紹介など、エコツーリズムの推進に従事。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2011年9月号に掲載されたものです。

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