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震災支援にジェンダーの視点を 女性支援の輪をつなげる

06.07.2012 · Posted in Interview

東日本大震災女性支援ネットワーク コーディネーター 斎藤文栄さん

●女性の視点を取り入れた震災支援を

「今回の震災で、日本の女性支援の実状は後進国よりもまだまだ下だというのが関係者の共通意識です。日本では女性の特徴にあわせた支援をすべきだということがあまりにも知られていない。ジェンダー統計もなく、男女別統計すらなく、日本のジェンダー政策は遅れています」。

東日本大震災女性支援ネットワークは、ジェンダーや女性問題の研究者や女性支援NPO・NGOが集まり、復興・防災の過程にジェンダー・多様性の視点を入れることを目的に2011年5月から活動を始めた中間支援団体である。

斎藤文栄さんは、コーディネーターとして、被災した女性を支援する団体や支援者をつなげ、女性支援に関する様々な情報を社会に発信するとともに、国や自治体に対しジェンダーの視点を取り入れた政策につなげるよう活動している。


1月29日に開催された、東日本大震災女性支援ネットワークの中間報告会「復興・災害とジェンダー・見えてきた女性支援の課題」では、司会を務めた。

 

● 米国で学んだ女性学を日本で実現

斎藤さんは大学卒業後、3年間企業に務めた後、アメリカに留学し女性学を学んだ。「会社に入ると、お茶汲み、男女間の給料差、セクハラの現実を見て疑問に感じた。留学するなら日本で学べないことを、と考え、女性学を専攻しました。留学先のワシントンD.C.には様々な女性団体があり、政策提言活動も多様で非常にうに勉強になりました」。

全米女性機構(NOW)でのインターンを経験した後、学んだことを日本政府に働きかける活動をしたいと帰国。堂本暁子(当時、参議院議員)氏の事務所を経て、福島みずほ参議院議員の秘書となる。

児童ポルノ・児童買春の法案やDV法案の作成に裏方として関わり、女性の権利、障がい者の権利を守る活動を続けるうちに、「法案の作成には関わっているものの、これらの政策が実際に人のためになっているのだろうか?」という疑問が生まれ、現場に携わりたい思いから法科大学院に入学し、弁護士をめざした。しかし、目標は達成できなかった。

「内閣府特命担当大臣に就任した福島氏に声をかけられ、内閣府に入り大臣室で福島氏をサポートしながら行政を垣間見ました。男女共同参画局とのやりとりも多く、日本のジェンダー政策はまだまだだと感じました」。

3・11当時は英国に滞在中だったが、昨年9月、御茶ノ水女子大学での「ジェンダーと政策」の特別講義の講師を依頼された際に、東日本大震災女性支援ネットワークの世話人に声をかけられ、コーディネーターを引き受けることに。

「このネットワークは、研修・支援・調査・メディアの4つのチームがそれぞれ、復興・防災の過程にジェンダー・多様性の視点を入れることを目的に活動しています。その活動を政策提言につなげるためには、様々な連携や調整が必要ですが、個で動くより、連携するほどにパワーは大きく有効な働きかけになってきています」。


2011年9月、御茶ノ水女子大での集中講座『ジェンダーと政策』の講義の様子。

 

●女性の声が反映されづらい社会

被災地の復興計画は発表されたものの暮らしの現状は、順調に復興しているとはいえない。女性、障がい者、子ども、高齢者、外国人などは、災害の被害を受けやすい。また、東北は地域によって、人に施されるより我慢する方がいいという気質やそう主張する人が目立ってしまう風土がある。人として当然の主張でも「生意気な嫁だ」などといわれ責められる場合があり、女性が声をあげにくい環境がある。

「緊急支援は男性中心で進められ、避難所で間仕切りを配ったけれど、プライバシーの確保よりも絆が大事だとして使わないところも多かった。生理用品を送ってもショーツが送られなかったり。また、女性が震災前に使っていた化粧品を使うことは、本人にとって日常に戻るうえで当然必要なことですが、ブランドものの化粧品を欲しいというと贅沢だといわれ、そういったことを口にするのさえ憚られる雰囲気があります。”被災者だから”というだけで、今までの生活を取り戻すことが、なぜ、できないのか。被災者の前に、ひとりの人間です。自然災害は、誰の身にも起こるのに、ただ運が悪かっただけで片付けてはいけない。女性も声をあげ、復興計画にもっと女性の意見が反映されるべきです」。

昨年12月、斉藤さんは被災地での支援者会議に出席したところ、支援のために奔走してきたNPOや女性団体は、そろそろ限界だという声があがっているのを目の当たりにした。

「地元の支援団体の人たちは、震災後、本来の活動と震災支援の両立でがんばってきた。しかしここに来て力尽き、年明けはどうしようか、という状態でした。支援者に限らず、被災された人たちも、今まで頑張ってきたけれど、失業保険も切れ始めて、これからどうなるんだろうと不安でいっぱいだと思います」。

 

●ジェンダー視点が欠けている日本

日本ではジェンダー研究が進んではいるが、今回の震災支援には「ジェンダー」視点が欠けていると指摘されている。斎藤さんがアメリカで女性学を学んだ10年前と比較して、今の日本についてどう思うかと質問したところ、

「あまり、変わっていませんね。政策面では、DV法ができ、前進しつつはあるけれど、夫婦別姓は全く進んでない。そもそも日本は男女平等が前提にない。欧米は、男女平等が前提というか、当たり前。日本の場合は、なぜ男女平等でなければならないのか、というところから議論しなければならず、なかなか根付いていかない」。

ヨーロッパでは、企業取締役の女性の割合を40%にしようという法律が作られようとしているが、日本では程遠い状況で、女性議員や女性役員が少ないことに疑問を持つ人も多くはない。

「女性の間でいろいろな価値観があっていいとは思いますが、やりたい人ができるような社会をつくり、個人の選択肢を増やすことは重要だと感じます」。

斎藤さんは、昨年近畿大学で「災害と人権」について講演を行った際、講演後に『今、何をすればいいんでしょうか』という質問をされ、「『自分の生き方を問い直してみてください』と答えるしかなかった。災害があってから支援を考えるのでは遅い。普段から席を譲れない人が、緊急時に人に何かできるわけがありません。平時から人権感覚、危機管理、差別への問題意識などを持ち合わせていない限り、災害時に対応はできません。想像力を働かせて自発的に動くという意味で、今回の震災は、ピンチをチャンスに変えるきっかけにしていく必要があると思います」。


2011年12月19日、ネットワークの世話人たちとともに小宮山厚生労働大臣を訪れ要望書を提出。

 

●女性の声を政策提言につなげたい

東日本大震災女性支援ネットワークは、昨年12月19日に小宮山厚生労働大臣に「被災地における女性向け雇用支援策の拡充のお願い」を提出した。被災地では男性の雇用が優先されること、また、女性は男性よりも非正規雇用の割合が高く、雇用保険に未加入で働いている場合も多いことを考えると、男性より高い割合で失業していることが推測される。

「要望書とともに、70弱の被災地の生の声もあわせて大臣に渡し、同時に、被災地雇用の男女別統計も出すようにお願いしたところ、12月末に男女別統計が出され、女性雇用の厳しい現実が示されました。復興計画は出ているので、復興計画に対してはジェンダー・アセスメント、防災計画に対して女性の視点を入れ込むべく、ジェンダー・マニュアルの作成を進めたいと思っています。ネットワークが立ち上がって半年強、政策提言は短期間でできるわけはなく、地道に声を拾い上げて効果的に政策を訴えていかないといけない。これからが本番」と意気込む。

3・11から1年。時間の経過とともに必要となる支援は変化していくが、震災支援は今後も継続が必要である。女性や子どもなど社会的弱者に対しては、必要に迫られた具体的な直接支援が目立つが、最前線から拾い上げた声を国や社会を動かす中枢に届ける、このような団体の存在は、非常に重要である。ケアが行き届かない状況に対して、行政に不満を述べるのではなく、市民が力をつけて自立できるためにも、このようなネットワークの動きの広がりを期待する。

 

斎藤文栄さん
東日本大震災女性支援ネットワーク(http://risetogetherjp.org/)コーディネーター。
米国ジョージ・ワシントン大学にて、女性学・公共政策修士号取得後、堂本暁子、福島みずほ両元参議院議員の秘書を経て、英国エセックス大学にて国際人権法修士号取得。福島みずほ元内閣府特命担当大臣の政策企画調査官としてジェンダー政策に関わる。2011年9月より現職。震災支援にジェンダー・多様性の視点を取り入れるべく、被災地や支援する女性の声を政策にまとめ関係各所に届け、復興過程に具体的な女性支援策を盛り込むための調整に尽力している。

 

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2012年3月号に掲載されたものです。

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