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第3回 ストレスに向き合う

08.02.2013 · Posted in コラム, メンタルヘルス

●ストレスとは

現代はストレス社会だといわれる。今や小学生でさえ「ストレス、たまった」という時代。職場にいても学校にいても家庭にいても人に気を遣い、常に場の空気を読むことに気を配らなければならず、時間に追われ、様々な情報に晒され、現代人は何かしらのストレスを抱えていると感じている。

ストレスという言葉は、もともと物理学で物体の表面に加えられる圧力のことを指す言葉だった。人間にも使い始めたカナダの医学者ハンス・セリエ(1907~1982)は、ストレスのことを“外界からの刺激に対する生体の反応”あるいは“反応した状態”と定義し、その刺激を“ストレッサー”と呼んだ。しかし現在では、言葉の意味はかなり広範囲になり、ストレッサーもストレスに含められている。

ストレスの種類は、気温や騒音などの「物理的・科学的ストレス」、疲労や病気、ケガなど「生理的ストレス」、職場や学校での人間関係、仕事の不満、挫折感、老後の不安などの「社会的・心理的ストレス」と大きく3つに分けられる。

同じ環境にいてもストレスを感じない人と感じやすい人に分かれるが、性格や考え方が大きく影響する。「責任感が強い」「世話好き」「完璧主義者」「独りよがり」「自分を犠牲にしがちな人」「努力型のよい子」「はっきりNOといえない人」「感情を表に出さない」といった性格の人は比較的ストレスを溜めやすいといわれる。

とかく悪者にされやすいストレスだが、全くストレスがなくなると人間はどうなるのか。アメリカの心理学者が、音も匂いも光もない気温変化もないストレスのない部屋で人間が過ごすとどうなるか実験したところ、体温調節は低下し、暗示にかかりやすくどんな指示にでも従い、幻覚や妄想が出るといった結果となった。人間が無ストレス状態で過ごすと刺激に対する対応力がなくなってしまう。つまり、心と身体のバランスを保つには適度なストレスが必要なのである。

自然の変化や他人からの影響などのストレスに対応するために、身体能力が高まり、新たな思考や発想が生まれる。ただ度を超すと悪い影響が出てくる。ストレスとのつきあい方が、ワークライフバランスに大きく影響してくるのは、多くの人が実感していることだろう。

●ストレスによる不調

ある企業の人事担当者は業績悪化によるリストラの担当になって半年で耳が聴こえなくなった。また、あるIT企業の社員はプロジェクトで取引先に2年間の予定で出向したが半年を過ぎた頃から抑うつ状態になり、通院と投薬でなんとか仕事を続けたが、うつ状態で会社に行くことができなくなった・・・最近、こういった話をあちこちで聴くようになった。これらの原因は過度のストレスである。

ストレスを溜め込んでしまうと表れるさまざまな変調は、大きく3種類に分けられる。めまい、息切れ、難聴、胃痛、便秘や下痢など「体に表れるもの」、やる気が出ない、イライラ、気持ちが晴れない、不安感といった「精神に出るもの」、アルコ−ル依存症や拒食症、過食症、買物依存などの「行動に出るもの」がある。身体に表れた場合、めまいや難聴なら耳鼻科、胃痛や下痢・便秘なら内科といったように、その症状の専門医に診てもらうことが重要だ。

会社員Aさんは、頭痛、便秘、立ちくらみ、めまい、動悸、微熱などが続き、病院で検査してもらうと特に重大な結果はなく、医者に自律神経失調症だといわれた。この「自律神経失調症」とは、交感神経と副交感神経の2つから成り立つ自律神経のバランスが崩れた場合に起こる症状の総称で、病名ではない。きちんとした医学書には載っていない病気のひとつの症状なのだが、実際のところは、何の病気かは全くわからない状態を指す。

「自律神経失調症」は多くの症状を自覚するために、内科、耳鼻科、婦人科、脳外科などを受診して様々な検査を受けてもほとんど異常はないため、「疲れのせいだから、ゆっくり休んでください」で済まされたり、整腸剤やビタミン剤を処方されて終わる場合が多い。そのため、本人の症状は改善されず、“ドクターショッピング”(医者のはしご)を繰り返したり、民間療法や健康食品に走ってしまう人も少なくない。

身体の不調として出るのは一種のサインである。それを認めてどのように理解するかが、その後の人生を左右する。たとえ薬でそれぞれの症状を抑えたとしても、その症状を発症する原因がなくならない限り、症状は再発する。職場の異動、転職、転居などの暮らしの変化でそれまで悩まされてきた症状がなくなったという話はよく聴く。その症状を発症させる原因は何なのか。日々の暮らしで何が負担になっているか、何がストレスになっているか、自分に向き合うことがとても重要だ。

●ストレス耐性

ユニクロ (ファーストリテイリング)は、3年以内に5割の新卒社員が辞めていく高い離職率、慢性化するサービス残業、多くのうつ病罹患者を出していることなどから、ブラック企業ではないかと言われている。ユニクロに新卒で入社し1年で退社した現在フリーライターの大宮冬洋氏は、著書『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋(著) ぱる出版 )で店舗スタッフの足跡を追っている。

大宮氏は、全国各地のユニクロ店舗で働くスタッフたちに、幸福かどうかを1年間訪ね歩いたところ、アルバイトとパートスタッフの8割はYES、正社員に関しては同じぐらいの割合でNOという結果だった。アルバイトやパート社員は責任範囲が限られ転勤もないため、勤務先の雰囲気さえよければ、忙しくても楽しく働き続けることができる。一方、社員は、年齢も学歴も関係ない完全実力主義、徹底した合理主義のため、店長でも業績が伴わなければ平社員に降格、新入社員だろうが一社員として責任を与えられる。そのため、実力が伴わなければ厳しい立場に追いやられる。

新卒で入社10年後に残っているのは2割程度という現実から、うつ気味で退職した大宮氏が、現役社員にこのままでいいのかと問いかけたところ、「最初から『完全実力主義』と謳っているんだから、実力のない人が退職するのは当たり前。辞めたければ辞めればいい。仕事ができない同僚にはすごく腹が立ちます。『早く辞めろ!』と内心では思っています。会社は家族じゃない。仕事なんだから、結果を出さないとお金をもらう資格はありません。」と回答した。これは柳井社長の主張と見事に重なるのだという。

この社員の言っていることは理路整然としていて反論の余地はない。ここで働き続けられる人間は、そのストレスをバネに実力を付けて成果を上げ、さらなる目標に向かっていける人であり、辞めていった人はこのストレスに耐え切れない心身の持ち主であっただけである。これだけの社員が離職するのだから、他企業に比べるとストレスフルな職場なのだろうが、やりがいを感じている人も存在している。離職率が高いからといって実力主義の基本を緩めると、今まで働き続けていた人は、違った種類のストレスを感じるかもしれない。

人によって感じるストレスの種類も強度も内容も全く違う。周りが頑張っているから自分も頑張れると思い込むのは、大きな間違いである。自分の状態は自分にしかわからない。同じ環境でも人によってストレスを感じ方が違うことを認めて、心身に影響が出てきたら、休む、転職する、環境を変える、考え方を変えるといった自分に適した対応が必要である。仕事の重圧や過労でうつ状態や不眠になり向精神薬や睡眠剤に頼る人は多いが、薬で治るわけではなく症状を軽くするだけである。自分をだましだまし仕事を続けていても、いずれ薬は効かなくなり副作用が表れる場合が多い。一旦うつに悩まされた人は、他人と一緒に働く自信を取り戻すのには、長い歳月が必要になるだろう。

いいストレスは自分を高め、悪いストレスは自分を貶める。ストレス耐性は性格と同様、人それぞれ。同じ業種、同じ職種でも、働く環境は千差万別であるし、業績や職場の構成メンバーでも変化する。ワークライフバランスのとれた人生を歩むには、適度なストレスが持続できる環境を見極め、そこに身を置くことが大切である。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2013年8月号に掲載されたものです。

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