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人身取引被害から 若い女性や子どもたちを救う

07.30.2010 · Posted in Interview, 女性問題

NPO法人 ポラリスプロジェクト 日本事務所代表 藤原 志帆子さん

●人身取引の被害者への相談支援

「人身取引は、麻薬取引に継ぐ、第二の犯罪産業。被害者の8割が女性で、その半分が子ども。日本では法の不備や支援機関が確立されていないうえに、周りの無関心も加わり、身体・性的な暴力、ことばの暴力から発展する人身取引が急増しています」。

藤原志帆子さんは、ワシントンD.C.に本部のあるポラリスプロジェクトの日本事務所代表として、若い女性や子どもたちへの暴力防止と相談から始まる支援を行っている。性風俗産業でのうそや脅迫による犯罪被害、ビデオや雑誌などポルノ産業での暴力や脅迫などの被害、「援助交際」や性風俗産業に関わる子どもたちなど、犯罪に関する情報を匿名で受け付け、救済活動を続けている。


児童買春・ポルノ被害の早期発見と予防を促す若年層向けのサイト開設の記者会見。(2009年4月 場所:外国人特派員協会)

●日本人が加害者であることにショックを受ける

藤原さんは、アメリカの大学で「Human Trafficking(人身取引)」という問題を知ってのめりこんでいった。

「人身取引の対象は、主にタイ、フィリピンなどの農村部から都市部に送られてくるような子どもや女性ですが、現地の人間より日本人やドイツ人などの買春目的の旅行者が加害者としての影響が大きいことを聞き、とても恥ずかしくなった」。卒業後、ワシントンD.Cに移り、ポラリスプロジェクトの本部でインターンシップとして活動する。「ポラリスを知ったとき、人身取引の被害者の支援団体がアメリカに存在することにとても驚いた。また、日本語を話せるボランティアの募集も不思議でした。前にいた日本人インターンが日本の現状を代表に話をしたことで、この問題はアメリカだけでなく、日本での活動の必要性を痛切に感じたようです」。

1年間、被害者の相談や保護された人の生活支援、団体の資金調達などを経験した後、日本での団体設立のために帰国。自らコーディネーターとして代表となり2004年に日本事務所を立ち上げた。2005年にホットラインを設置し、日本滞在の外国人が利用するフリーペーパーなどに告知すると、すぐに電話が入るように。「英語とスペイン語で情報を流したので、フィリピン、タイ、ポーランド、韓国、コロンビアなど、様々な人種から電話が入り驚きました」。

被害者本人からではなく、店の客や近所の人など被害者を知る周りの人たちからの連絡をもとに、児童相談所、女性団体、無料法律相談などにつなげる。「日本では人身取引の定義が狭く、少しでもお金を多くもらったり以前に売春経験があったりすると警察では認定が難しい。給料金額、パスポート所持の有無、性的サービスの強要など、明確な搾取の証拠を集め、それをもって本人を説得し、安全・安心に今の状況から抜け出せる方法を働きかけます。本人は怖がっていて、警察も信用できず、逃げ出しても「どうせ捕まるんでしょ」とあきらめている人も多い。でも彼女たちが口を割らない限り、人身売買の証拠がないわけです。そこを説得するのが難しい」。

家族の期待を背負って全うな仕事で出稼ぎにくるつもりだったのに、だまされて人身取引の被害者になってしまう。にも関わらず、不法滞在や売春が違法だと強制送還となり、警察には取り締まる枠組みがない。
「最近は手口も巧妙になってきている。彼女たちは犯罪者ではなく、被害者の側面があることをきちんと認識してもらうために、警察、入国管理局、人権政策を担当する行政職員などに対して研修や講演を行っています」。

見えない被害者とつながるために、さまざまな企業や団体から寄付された、化粧品や避妊具など、女性が日常使うグッズを繁華街などで配布している。

●あまりにも遅れている日本

アジアからの研修生制度(技能実習生)も問題になっている。日本で学んだ技術を故郷に持ち帰るのが目的とされているが、実際には時給300円の安い労働者として扱われ、そのほとんどが女性だ。

「被害者に会うと、農業や紡績業で1日16時間働かされ、トイレに行く度に罰金など、ひどい人権侵害が行われている。また、花嫁不足の日本の東北地方からきた男性と数回お見合いして嫁いだ先で、労働と介護の担い手として働かされ、夫の暴力に耐えきれなくて逃げ出すというケースも増えています」。

日本の研修生制度は、国際社会から非難を浴び、見直しを迫られているが、中小企業側の強い反発もあって未だに改善されていない。

「かつて韓国でも同じ制度があり、経済産業省や中小企業は安い労働力を使えるうまい仕組みだと考えていたが、今は一切無くなった。元々韓国は日本より保守的で女性を買う文化もあり人身売買は横行していたが、強制売春のために監禁された女性30人以上が火事で亡くなった事件があり、それをきっかけに女性省(現在は家族省)が設置された。現在は、性を買わない世の中にするために性を買うと罰則、売春をする女性は社会的弱者という考えの元で就業支援などをする方向に国全体が変化してきています」。

ポラリスの本部が2002年の設立当初に始めた電話相談を、保健福祉省(日本の厚労省に相当)が人身売買ホットラインとして委託しため、現在ではアメリカ最大の反人身取引団体に成長した。「アメリカでは、人身取引で加害者側に渡るお金が、資金洗浄や麻薬取引など他の犯罪で使われることが多いため、テロリスト対策としても、かなり強力に助成金を投入してこの問題に取り組んだため、状況は改善している。それ比べて、日本はあまりにも遅れています」。

●10代の女性や子どもの被害者の増加

最近は日本人からの相談が増え、2009年にポラリスに寄せられた相談件数360件のうち、3~4割は日本人からの相談である。

「人身取引ではないが、日本ではたくさんの女の子が性産業で働いており、何らかの暴力を受けています。自分の意志で働いているといわれているが、貧困や虐待でそういう世界しか知らず、辞めるきっかけも見つけられずに、自尊心もなく自暴自棄。将来の夢さえもない。最近は児童ポルノ系の相談も増え、グラビアアイドルの若年化が進んでおり、出版業界は自主規制といいながら、売上至上主義で実質は野放し。17歳までジュニアアイドルだった子の多くが18歳になるとAV業界に行くというひどい現実がある」。

「児童の権利条約に関するシンポジウム~今後の課題」(2010年3月・主催:外務省 共催:ユニセフ東京事務所、日本ユニセフ協会)【児童の性的搾取からの保護】セッションで、藤原さんは日本における子どもの商業的性的搾取(児童ポルノや児童買春)について講演
この日本の状況を変えるために、藤原さんは、他のNPOとともに包括的に人身取引の被害者を守る法律制定を訴えかけている。

「現状では被害者が受けた損害を保障できない。被害者が外国人の場合、日本に滞在して民事裁判を起こす時間も与えられず、ビザもお金もなく働けない。法律がないと被害者を助けても、リスクが大きすぎて被害者は口を割らないため、加害者を訴追できず、根本的な解決に至らない」。

TVではタレントが性的な話題で盛り上がり、ホストやキャバ嬢のドラマや子どものアイドルオーディションが放映され、援交や出会い系サイトに対する抵抗感が低い。こんな社会を作ったのは欲をニーズにすり替えてビジネスする大人の多さと無関心が原因だろう。子どもを守るために何ができるか、大人はよく考え、行動に移すべきではないだろうか。

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藤原 志帆子さん
NPO法人 ポラリスプロジェクト(http://www.polarisproject.jp/) 日本事務所代表。
米国ウィスコンシン大学マディソン校卒業。米国NPOポラリスプロジェクトでの勤務を経て、2004年に同団体日本事務所「ポラリスジャ パン」を設立し、人身取引をなくすために多言語の相談電話による被害の発見と救済事業を開始。人身取引被害の子どもや女性への支援とともに、児童施設・入 国管理局などに対し研修も行う。08年母校ウィスコンシン大学マディソン校より名誉卒業生賞受賞。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2010年7月号に掲載されたものです。

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