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子どもだからこそできる活動を! 大人が支える、子どもによる国際協力

05.26.2010 · Posted in Interview, 子ども

NPO法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン  事務局長 中島早苗さん

●カナダの12歳の男の子が創設

「フリー・ザ・チルドレン」は、カナダでクレイグ・キールバーガー少年が創った「子どもによる、子どものための」国際協力団体である。

彼は小学校6年生の時に児童労働を知ってショックを受け、クラスメイトとグループを作り募金活動などをスタート。中学1年の時に南アジア5カ国を回り、想像以上の悲惨な現状に衝撃を受け、「この現状を変えるには実際に見たことを伝えていかないと」という思いから設立された。フリー・ザ・チルドレンのネットワークは現在、世界45カ国に広がり、北米だけでも5万人以上が活動している。

日本の「フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)」は中島さんが設立し、現在、全国各地で18歳以下の約300人が、世界の子どもたちの貧困や児童労働からの自立支援のために、チャリティ・コンサートやセミナーなど様々な活動を行っている。

創設者で代表のクレイグ・キールバーガー氏は、大学生活を送るなか、支援事業の視察やスピーチなど世界中で幅広く活動。2000年以降、3回「ノーベル平和賞」にノミネートされている。2009年12月にはFTCJ設立10周年記念として来日し、カナダ大使館他全国5箇所で講演&交流会を行った。

●子どもがなかなか集まらない

中島さんは大学時代から環境保護団体で活動し、いずれNGOで働くには一般企業を経験したほうが近道だと考え、アジアとの取引のある一般企業に就職。2年半働いた後、インターンとして入ったアメリカのNGOで、12歳の少年が児童労働廃絶のために立ち上げた活動が、カナダだけでなくアメリカにも広がっているという記事を目にした。
「たくさんの子どもたちが社会に対して声をあげていることに驚き、クレイグくんに思わず応援メールを送りました」。

帰国後、クレイグくんと同い年の妹にこの活動を話したところ「やってみたい」というので、高校受験後すぐに活動できるように中島さんは情報やサポーターを集め組織づくりを始めた。しかし、集まるのは大学生以上の大人ばかり。そこで子どもを集めるためにフィリピンの活動家を日本に招聘する。

「8歳から性産業で働かされ、救出された後、自らの体験を話す活動家となった15歳の女の子を日本に呼んだんです。明治学院高校の授業でスピーチを行ったところ、活動したいと数人が手を挙げてくれたときは、本当にうれしかったですね」。翌年には出版記念に合わせクレイグくんを招聘したところ、マスコミに取り上げられ、埼玉、熊本など全国に活動メンバーが増えた。

FTCJに参加する子の約9割が女の子で、キリスト教系や国際学科、帰国子女受入のある学校の子が多い。「そういう学校の子は国際問題を意識している子が多く、奉仕などの土壌ができている。海外経験がない子や公立の子たちで参加する子は保護者が協力的な場合が多い。しかし、日本の子どもたちは北米の子どもたちに比べると、夏休みなども短く、塾やおけいこなどで忙しい。本人がやりたいと連絡をくれても、大学に入ってから自分で稼げるようになってからやればいいと親に反対されて活動できない中学生が多いのは残念です」と、日本と海外の環境の違いを憂う。

モンゴルの調査で「本を読んだことがないから、ぜひ読みたい」という子どもの声を受け、FTCJでゲル図書館を開設。開設式には、たくさんの子どもが訪れた。

●子どもたちをサポートする難しさ

FTCJは、子ども主体の活動を大事にしているが、子どもたちにまかせすぎると自分たちの関心事に興味が行き過ぎて、国際協力という本来の目的を忘れて突っ走ってしまうこともある。

「フィリピンの養護施設に対し、学校までの送迎バスとして、『日本で廃棄処分になったバスを自分たちでペイントして贈ろう』と盛り上がったのですが、現地に問い合わせてみると、『日本のバスは目立つのでフィリピン国内で使われているバスを買いたい』と言う。寄付金だけになったことを聞いた子どもたちはひどく落胆してしまったんです。いくら子どもたちの提案でも、相手にとって必要ない支援はできない。それを理解して活動を継続させるのはなかなか難しいですね」。

人間関係にも気を使う。「リーダーシップの強い子が、意欲があるのに意見やペースの合わない子を排除してしまうことも。平和や自立を目標に共存や尊重を訴えているのに、身近な人を排除していくのは本来の活動と対局にあること。子どもにまかせすぎて活動がうまくいかず、もっとサポートしてあげるべきだったと後悔したこともあります」。

また、大人サポーターによる迷惑行為もあり、結果的に子どもが活動を止めてしまったことも。「子どももサポーターの大人も意欲や関わり方はそれぞれなので、臨機応変に対応するしかありません。本来の目的を見失わず、意識を継続しながら子どもたちが活動をやり遂げるためには、大人がすべきサポートの見極めに神経を使います」と中島さんは言う。

●子どもたちの成長がうれしい

様々な苦労を伴いながら子どもたちの活動をサポートする中島さんを動かす原動力は、子どもたちの成長だ。
「海外では、貧困で虐待を受け笑顔もなく精神的に不安定で悪態をついていた子が、セラピーや教育によって自尊心が生まれて笑顔が増え、自分のことを大切にするようになり、なかにはNGOのスタッフになる子もいる。そんな子たちを見ると支援して本当に良かったと思えます。

日本では、活動の意欲があっても何をしていいかわからず、スピーチもできなかった子が、様々な人と関わりあって成長し、仲間をリードしたり他の意見を聞けるようになったり。現地の子とふれあうと、伝えていこうという意識が芽生え、リーダーになっていくケースも多い。思春期に劇的に変化する子どもの様子を見られるのは本当に幸せです」。
児童労働を考えるウォークの活動をする中高生(2009年6月)。企画から広報、助成金の申請、プレスリリース発行などの運営まですべて高校生が中心となって行われた。

今後は日本各地で活動できる環境を整え、メンバーを増やすのが目標だ。「カナダのフリー・ザ・チルドレンでは、ほとんどの学校とつながりがあり、学校が活動を奨励しています。1万人収容できるスタジアムで開催されるイベントでは、俳優やアーチスト・政治家などが『子どもは世界を変えられる』というメッセージを発信する。学校単位で参加した子どもたちは、地域でアクションを起こした結果、アジアなどに学校を50も建てたこともあります」。

中島さんはアメリカでのインターン時代に「日本人は、なぜそんなにおとなしく、意見がないのか?」と言われくやしい思いをしたことがある。「日本人は意見がないわけではなく、社会問題に対して関心は持っている。でも、学校では自分の意見を言う機会があまり与えられておらず、意思表明するのが苦手な子が多い。社会や学校で子どもが発言しやすい環境を大人がつくり、耳を傾ける必要がある。子どもが『大人にならないとできない』と諦めるのではなく、『子どもでもできることがあるんだよ』と伝えていきたい」。

子どもの国際教育が叫ばれているが、英語教育でさえ是非が問題にされる日本の教育の現状ではなかなか難しい。大人が子どもをサポートするFTCJのような組織と、中島さんのような個々を尊重し支えることができる人のもとで、自由な発想を実行に移してこそ、本当の国際人が育つのではないだろうか。日本の子どもの未来のために、大人と子どもが互いに尊重し共存できる社会になるためにも、活動が広がることを期待したい。

中島早苗さん
NPO法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(http://www.ftcj.com/)事務局長。
関東学院短期大学(英語専攻)卒業後、1997年からカリフォルニアのNGO団体、Earth Island Instituteで約1年間インターンを経験。1999年、フリー・ザ・チルドレン・ジャパン設立。全国約300人の子どもたちが主体となるインド・フィリピン・モンゴルへの自立支援事業や国内の子ども活動応援事業のサポートを行っている。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2010年4月号に掲載されたものです。

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