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日本の子どもたちを 大人たちの協力&協働でサポート

05.23.2010 · Posted in Interview, 子ども

NPO法人キッズドア  理事長 渡辺由美子さん

●子どもを取り巻く環境を良くしたい

「いじめ・自殺・貧困…。日本の子どもを取り巻く状況はどんどん悪くなっている。行政・地域・企業がそれぞれ子育てや教育を支援しているが実際に届いているのはごく一部。もっとたくさんの子どもたちにいろいろな体験や情報提供をできないだろうか」。

キッズドアを立ちあげた渡辺由美子さんは、「こどもと社会をつなぐポータルサイト キッズドア」での情報発信をベースに、子どもたちに向けて活動をしている様々な企業やNPO・団体などと連携してイベントや情報提供などの支援活動を行っている。


「花とミツバチの絵コンクール」(文部科学省「NPOを核とした生涯学習活性化事業)」参加の写生会。

●英国と日本の違い

渡辺さんは、2001年から夫の転勤で英国で1年を過ごした。

「長男の小学校入学準備で学校に説明を聞きに行くと、必要なものはスーパーで買えるポロシャツとズボンなどの制服とスクールバッグのみ。教科書も教材も文房具もすべて学校に揃っているので必要ないと言われて日本と随分違うなと。そのうえ、英語ができない長男のためにスペシャルサポートとしてボランティアのお母さんや特別に英語の先生を用意してくれた。こんなにしてもらっていいんですか?と驚いたほどです」。

英国では全員の入学式はなく、3~5人ずつ学校の環境やカリキュラムに慣らしていくため、全員揃う頃には学校が苦手な子はほとんどいない。手のかかる子にはボランティア参加の親たちが面倒をみる。昼休みには先生は休憩をとる代わりにディナーレディといわれる女性が子どもを見守り、ディナーレディからの注意が3回になると親が呼び出される。学校への質問方法については、担任への質問で納得できなければ学年主任、副校長となり、校長へのクレームの場合は教育委員会が同席、それでも納得できない場合は裁判になるというルールが書面での説明があった。

「とにかく英国の学校は子ども主体で考えられ、権限委譲や情報共有の仕組みがきちんとできているのに驚きました」。帰国してみると、担任は自分の采配中心でクラス運営するため先生による方針の偏りがあり、校長は詳細を把握していない。教員の事務仕事が増え子どもと向き合える時間も減少しており「日本の学校は昔より退化していると感じました」。

子どもを取り巻く日本の社会にも危機感を抱いた。
「公立小学校でも給食費や教材費で毎月5000円以上が徴収される。小さい頃からのお稽古事、学校だけの勉強では足りないから塾へ行くのが当たり前。今の日本はお金をかけないと子育てできない状況にある。他国の小学校や子どもの事情を調べても、今の日本の子どもを取り巻く状況はおかしい!学校や教育制度にも問題は多いが変えるのは難しい。ならば、企業や様々な団体と連携して子どもを支援する活動ができれば」という思いがキッズドア設立につながった。


日本舞踊体験は、「発見!体験!日本の伝統&文化ワークショップ」の1つ。

●社会全体で子どもを支える

行政はもちろん、地域には子ども向け活動をしているNPOや団体がたくさんあるが、ノウハウがなく苦戦する場合が少なくない。企業のCSR担当も子ども向け事業を模索しているが実現が難しい。渡辺さんは、マーケティングプランナーとしてのスキルを各団体のコーディネートや運営・PRに活用すれば「個々に頑張っても限界があるが、それぞれが交流を深め、子どものために目的を同じとする団体を結びつければパワーも大きくなる」と考えた。

2009年、東京国際フォーラムで行われた「丸の内キッズフェスタ×キッズドア」では、スポーツ車椅子など障害者体験、和太鼓や墨絵などの音楽・アート、庄野真代さんやおおたか静流さんといったプロのアーチストをコーディネートして様々なワークショップやイベントを企画した。参加した「チャイルドライン支援センター」の担当者は、「子どもたちの絵馬展を都庁の展示室で行っても1日200人程度の来場者でしたが、このイベントでは何千人もの来場者があり反響も大きかった」と喜んだ。


おおたか静流さん、ピアニストの大友剛さんが案内役で、声の即興演奏を行う「声のお絵かきワークショップ」。

渡辺さんはいくつかのイベントを行ううちに「来場するのは、親が外の情報に敏感で子どもを連れて行くことができる経済的に余裕がある家庭の子どもたちばかり。ひとり親などで忙しくて余裕がない家庭の子は、夏休みに行くところもない。そういう子たちに体験させてあげるには、あちこちの地域に出ていく必要がある」。そこで、ボランティア登録した学生を組織して子どもたちのための企画やイベントを行う『ガクボラ』を2009年秋からスタートさせた。

●すべての子どもがハッピーになるために

イベント時に最もかかるスタッフの人件費を学生ボランティアで賄えるうえに、意識の高い学生を各地域で活動をするNPOや団体とマッチングさせれば、広い地域の子どもたちの支援ができる。

「国際協力の団体によると1年間に1000人もの大学生をボランティアとして海外に派遣している。交通費をかけてまで出て行けない1人親家庭など経済的に厳しいお子さんは国内にたくさんいる。学生たちには、海外だけでなく身近にいるそんな子どもたちにも目を向けて欲しい」。学生ボランティアは無償だが、就活に役立つ有料セミナーを無料受講できるなどのインセンティブを用意している。「5年後には地方で活動する団体と協力して『ガクボラ』の拠点を増やしていきたい」と意気込む。

渡辺さんは、いくつかの任意団体とで進める『こどもハッピー化計画』の共同代表も務めており、『ガクボラ』はその中のプロジェクトでもある。「日本では親の経済格差が教育格差につながり将来に希望を持てない子がいる。1日に1.4人の子どもが自殺し、子どもの自殺者も虐待死も年々増えている。わが子の周りを見ても日本の子どもの状況がおかしいのを実感する。すべての子どもが貧困などで将来を左右されずにハッピーになれるように、企業が学生を、学生が子どもたちをボランティアのリレーで社会を支え、日本の子どもの状況が少しでも良くなるような社会を創りたい」。

「子は親の鏡」。子どもが希望を持てない社会を作り出した責任は大人にある。教育制度が変わっても、そこからこぼれ落ちる子はいる。大人たちができることで手をつないで社会の不備を支えることが、将来の子どもの笑顔につながるにちがいない。

渡辺由美子さん
NPO法人キッズドア(http://www.kidsdoor.net/) 理事長。
千葉大学工学部工業意匠学科卒業。㈱西武百貨店、㈱)キャリアデザインセンターを経て、マーケティングプランナーとして独立。2007年「ポータ ルサイト キッズドア」をオープン。企業・行政・NPOなどと連携して子ども向けイベントや子ども支援活動に関する勉強会などを幅広い子ども支援活動を 行っている。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2010年2月号に掲載されたものです。

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