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より良い社会づくりのために企業の社会貢献を促進

05.01.2011 · Posted in Interview, 社会貢献

CSRアジア東京事務所 日本代表 赤羽 真紀子さん

●CSRに特化したシンクタンク

社会が豊かになるに従い、企業の経済成長だけではなく、CSR(企業の社会的責任〜 corporate social responsibility)が企業評価のものさしとして注目されている。
赤羽真紀子さんが東京事務所代表を務めるCSRアジアは、企業のCSRのためのシンクタンクである。2003年に香港で立ち上げられ、現在は、香港、広州、北京、バンコク、クアラルンプール、シドニー、イギリス、ホーチミン、ダッカの9 ヶ所に事務所があり、各国それぞれの国の特性や環境をふまえながら、各企業のCSR活動を支援している。

2010年香港で開催した「CSRアジアサミット」

●環境問題への関心から社会貢献を仕事に

赤羽さんは、大学卒業後、総合職として銀行に入行したが、1年で退社。環境問題に関心があり、早稲田大学理学部に学士入学した。「当時、環境問題といえば、生物多様性や汚染物質など、ピンポイントで分かれていたので、理系を学ばないといけないと思ったんです」。その後、アメリカに2年間留学し、生態学を学んだ。

アメリカで、企業内の環境活動に携わる部署の存在を知り、日本企業の環境関連部署で働こうと帰国。しかし、「面接では、アメリカで学んだことを見て欲しいのに、『なぜ、1 年で銀行を辞めたの?』という質問ばかり。98年頃の日本では、環境といえば、ゴミ問題と公害くらいしかありませんでした」。アメリカのような環境関連ポストを待っていたところ、スターバックスコーヒージャパンの環境と社会貢献の担当者募集に応募。日本企業で環境と社会貢献の部署を立上げる第一号となった。

●日本初の環境と社会貢献部署

赤羽さんは、スターバックスコーヒージャパンで、日本のコーヒーチェーンで初のISO14001取得。社員ボランティアを全国で約1000人動員し、地域のゴミ拾いをおこない、メディアにも取り上げられた。また、コーヒーに使用する大量の牛乳パックをお店のトイレットペーパーにリサイクルする仕組みもつくり上げた。

日本でコーヒーを扱う多くの会社のなかで、フェアトレードを扱ったのも、スターバックスが初めて。
「当時、無農薬や有機栽培はありましたが、フェアトレードは知られていませんでした。日本での認証を受け、フェアトレードという仕組みと環境に良いということを、なんとか社内にもお客様にも広めたかった」。

しかし、苦労した面もある。
「企業のトップ層は、アメリカの企業の環境活動を理解しているので、普及させたい姿勢がある。また、平均年齢が25歳の社内で若い人の反応は早く、活動にも積極的。でも、中間層は、フェアトレードが大きく売上に貢献するわけではないし、リサイクルはオペレーションの手間やコストがかかると消極的。その説得が大変でした。ボトムアップのために、ゴミ拾いに社長自ら参加してもらって活動の良さをアピールしたり、社内会議で社長から強く活動を後押ししてもらったり。ゴミ拾いに参加した人には、ロゴ入の軍手1万組を配りました。地味ですが効果はありましたね」。

たった2人の部署だったが、環境活動に貢献したことで赤羽さんは社長賞を受賞している。

2011年2月に日本でおこなった、CSRアジアの創設者で会長のリチャード・ウェルフォードによるISO26000 トレーニング。

●世の中が変わるための企業の力

赤羽さんは、セールスフォース・ドットコムの東京オフィスの社会貢献部署の責任者に就き、日本だけではなく、シンガポール、香港、シドニーなど、アジア・パシフィックのCSRを手がけるようになる。

日本やシンガポールの子どもたち向けに、学校の勉強が実際の職業にどう結びつくかを企業の社員を交えて体験させる職業訓練プログラムや、工場の社員向けの環境教育、中国での企業と地方政府の橋渡し、地域住民とNGOとの連携など、さまざまなCSR活動を提案し実行された。

「複数の人間が存在すれば、様々な問題があるはずなのに、昔は労働や政治の観点のみでしか活動が行われていなかった。今は、ネットの掲示板への書き込みや携帯のメッセージなど、市民自身がメディアになる時代。企業の不正などに一晩対応しなかったり、対応が悪かっただけで大騒ぎになる。企業側が配慮して情報をコントロールしないと、企業の存続に関わる大きなリスクになるんです」。だからこそ、企業のブランディングとして、市民社会と関わるCSR活動が必要不可欠なのだと赤羽さんは言う。

環境に携わるには研究者やNGOなど選択肢があるはずだが、赤羽さんは、なぜCSRを選んだのか。
「留学したアメリカでは、市民社会も強いが、企業が積極的に社会問題に関わり、しかもその対応の速さを目の当たりにした。環境問題も、市民の人たちの声で動かすことが大事ですが、企業が動かないと社会問題も解決しないことも多い。世の中が変わるには、企業の動きが重要です」。企業の社会を動かす力の大きさを知っているからこそ、日本でもそれを実現したいのだという。


2010年9月に香港で開催した、香港の労使問題専門家と、日本企業からの参加者との意見交換会。

●日本の存在感の無さに驚く

産休・育休で3年間休んだ後、赤羽さんは、2009年、CSRアジアのクアラルンプールの会議に参加した。
「2005年には、欧米に本社がある会社が拠点を置く場所は、東京、香港、シンガポールが約3割ずつでしたが2009年には、香港かシンガポールがほとんど。日本無しでアジアや世界が動いていくなんて、日本企業のアジアでの存在感の無さにショックを受けました」。

アジア企業のCSR担当者が約500人参加するなか、日本人は10人ほど、スピーカーはゼロ。「日本のガラパゴス化は深刻。ビジネスの規模からすると、日本企業が参加して当然のはずなのに。言語が障壁なのか、日本人の内向き体質が原因なのか……」。

危機感を感じた赤羽さんは、CSRアジアの東京代表に就任する。「日本は終戦後、意思決定が早かった。だからあれほど早く経済発展したんだと思う。今は既得権益でがんじがらめ」。今の日本の企業は、腰をあげるのが遅く、社会貢献しつつ利益もあげつつ、という企業が少ないと憂う。

アジアでは国も企業も勢いづいている。「青島ビールは『明日はカールスバーグになるぞ!』、チャイナモバイルは『目指せ!ボーダーフォン』とローカル企業にとどまらず、グローバル企業になる信念をもって動いている。一方、日本企業は、すでにグローバル展開し、マーケットシェアも高く、グローバルリーダーになれる存在なのに、そうなる気配を感じられません。中国は人口が10倍もあるのでしかたないとはいえ、経済大国といわれた日本はGDPでも中国に抜かれた。中国政府は民間と共同で産業振興を推進し、とにかく政府も企業も動きが早く、フレキシブル。この速さや柔軟性は日本は学ぶべき。この1、2年が日本にとっての勝負だと思います」。

東京事務所をスタートさせた昨年は思ったより反応は多く、日本企業もスピード感が出てきたという赤羽さん。CSRについての相談とはいえ、企業のあらゆる問題の相談を受けるため「毎日がジェットコースター。でもゼロスタートなので、ストレスはない」という。

国内への視点に偏りがちの日本企業が、アジアや世界で存在感を示すには、今までの経済発展の方式にとらわれず、時代の動きと社会的責任を重要視した経営でないと生き残れないだろう。

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赤羽 真紀子さん
CSRアジア東京事務所 日本代表(http://www.csr-asia.com/index.php)。
早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱銀行に総合職として入行。退職後、早稲田大学教育学部理学科生物学専修に学士入学。米国カリフォルニア大学リバーサイド校大学院生物学科、タフツ大学大学院動物公共福祉学科で学ぶ。帰国後、スターバックス コーヒー ジャパンを経て、米国セールスフォース・ドットコムの日本法人の社会貢献部の立ち上げを果たし、成果が認められアジア・パシフィックの社会貢献部門統括に就任。日興アセットマネジメントの初代CSR室長を務めた。現在、「CSRアジア」日本事務所代表。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2011年4月号に掲載されたものです。

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