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[No.114 : 初めてビタミンを発見した日本人]


 ビタミンの研究は欧米のほうが進んでいると思いがち。日本には最近になってからビタミンなどの栄養素についての情報が入ってきたように思われますが、最初にビタミンを発見したのは鈴木梅太郎という日本人学者でした。そのきっかけは日本人に最も身近な米の研究だったのです。

 1874年(明治7年)静岡県の農家に生まれた鈴木梅太郎は、向学心に燃える少年で、小学校卒業後、14歳の時に単身徒歩で上京。東京農林学校(東京大学農学部の前身)に入学し、首席で卒業後、大学院に進学し、4年で助教授になりました。

 1901年には農学博士の学位を取得し、文部省留学生として欧州に留学。ベルリン大学で、後のノーベル化学賞を受賞したエミール・フィッシャーのもとで、たんぱく質やアミノ酸の分析技術を学びます。留学中に、日本人と欧米人の体格の違いを実感したのをきっかけに、日本人の主食である”米”を生涯の研究対象にすることにしたのです。

 1906年に帰国後、東京帝国大学教授に就任。そのころ、原因不明の病気として恐れられていた「脚気(かっけ)」を研究し始めます。

 「脚気」は、手足のしびれ感や全身倦怠が起こり、足のつま先が上がらなくなったり、つまずいて転びやすくなるという運動麻痺の症状の他に、動悸、息切れ、低血圧、むくみ、頻脈、食欲不振、吐き気などが起こり、進行すると歩行困難になり最後には心不全で死亡するという病気です。主に、ビタミンB1不足が原因の病気です。

 元禄時代には、脚気は「江戸わずらい」と呼ばれ、江戸特有の風土病として恐れられていました。その当時の貧しい農民たちは雑穀を主食にしていたのに対し、江戸の人々は白米を主食にしていたため、玄米で食べればとれるビタミンB1が、糠をそぎ落とした白米を食べるだけでは十分にとれなかったのです。

 鈴木梅太郎は、「脚気」にかかったハトに米糠を与えると症状が改善されることに気づき、1910年、米糠から脚気を治す成分を抽出するのに成功。その年の12月13日にその研究を発表します。当初「アベリ酸」と命名され、後に「オリザニン」と改名されたこの成分こそが、今のビタミンB1なのです。

 しかし、当時の日本の軍隊では脚気が猛威を振るい、一端患者が出始めると次々と患者が増えていくことから脚気は伝染病という見方が有力で、西欧にはなくアジアにだけ存在するため、風土病だと考えられていました。兵士の多くが脚気にかかり、軍の存亡にも関わる危機のなか、海軍医務局長が、西欧と日本の軍隊の違いは食事にあるとして、白米ではなくパン(後に麦飯)を中心とした食事をとれば脚気にかからないことを証明したため、海軍では脚気患者が激減しました。

 しかし、ドイツの細菌学を中心とした陸軍軍医の上層部は納得せず、食事の改善などで病気が治るはずがないと考え、麦飯導入に反対し、多くの陸軍の兵士が脚気で亡くなったと言います。また、そのころ脚気の病原菌が発見されたという誤報もあり、鈴木梅太郎の発表は日本の医学界からは無視されてしまいます。

 また、彼の研究論文がドイツ語に翻訳される際、「これは新しい栄養素である」という一行が訳されなかったため、オリザニンは世界的な注目を受けることなく、日本でのみの第一発見者として知られるにとどまりました。

 ビタミンの研究は英米が中心となって進められ、翌年1911年、ポーランドのカシミール・フンクが同様の実験で抽出した成分に、”生命(ビタ)に必要な有機化合物(アミン)”という意味で、「ビタミン」と命名したため、ビタミン発見の名声はさらわれてしまいます。

 その後、鈴木梅太郎は、ビタミン学説の確立に力を注ぎ、オリザニンの結晶化に成功。1937年のフランス万国博覧会にはオリザニンの結晶を出品し、名誉賞を授与されています。また、消化酵素剤タカジアスターゼで知られる三共商店(現・三共株式会社)の初代学術顧問として、脚気治療用薬品「オリザニン」の製品化に貢献しました。

 他に、米を原料としない合成酒の製造、ビタミンAの製品化、防腐剤サリチル酸の国内開発など、数々の業績を残しました。1943年には文化勲章を受章。化学を人々の生活に役立つものとして結びつけることに尽力をつくしました。

 当初は、ポーランドの学者にビタミン先取権を奪われましたが、現在では事実上のビタミン発見者として鈴木梅太郎は高く評価され、2000年から12月13日が「ビタミンの日」として制定されました。

 昔は猛威を振るった脚気も、栄養状態がよくなった今となっては昔の病気というイメージ。しかし、昭和40年代後半から、スポーツ好きの若者の間で足のむくみ、神経痛のような痛みを訴える症状、つまり脚気になる人がまた現れたのです。

 栄養過多の時代に脚気にかかる人が増えてきた原因は、カップ麺などのインスタント食品と清涼飲料水の摂りすぎです。これらの食品はカロリーが多く、ビタミンB1はあまり含まれていません。ビタミンB1は糖質の代謝に不可欠なビタミンですが、体内で合成されるので最も不足しやすいビタミンの一つで、運動するとビタミンB1は多く消費されます。ビタミンB1不足は食欲不振、イライラや疲れがたまりやすくなります。

 世界で初めて発見されたビタミンB1の重要さを忘れずに、日々の食生活ではビタミンB1不足に気をつけたいものです。

---2004.4.28 (c) Mica Okamoto ---

 

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