不登校や引きこもりの子どもたちについてのシンポジウムで、精神科医の町沢静夫さんが、何人もの患者を診てきた経験をふまえたお話をされた。
最近、不登校や引きこもりの子どもたちが増え、それが犯罪に結びつくかのような報道がなされているが、実際には子どもより、大人の引きこもりのほうが多く、社会復帰も困難だといわれる。
しかし、治らないものではないらしく、引きこもりの治療は25歳以下とそれ以上の年齢で作戦を変えることだと強調されていた。つまり、25歳以下の若者は、親から離して同年代だけの病棟に入院させ、寮生活のような雰囲気でグループセラピーを行い、徹底的に本音を話す練習をさせる。最初は一言も話さない子でも、徐々に口を開き、冗談さえ言うようになる。今まで言えなかった本音が、せきを切ったように出てくる。そして、それができるようになると、苦手だった対人関係も自分なりに築けるようになり、さらには性格まで明るく変わってしまう人もいる。話術だけではなく、治ってほしいという治療側の真剣な想いが言葉や行動で伝わるからだろうか。
25歳以上の場合は、就職の面接という設定で、実践的な話し方のロールプレイングを行う。「なぜ今まで働いていなかったか」という面接官の質問には、「不登校で引きこもってたなんていうと採用されないから、肝臓を悪くしていて、仕事ができなかったと言うんだよ」というように教え込むのだそうだ。元々真面目で潔癖、話し下手の人が多いから、ウソも上手くはつけない。そこを徹底的に練習する。現実の社会で生きていくには、時には自分を守るためのウソも必要だということを身につけさせるのだ。その上で、採用にこぎつけ1週間でも3ヶ月でも辞めずに仕事ができたら、「たったそれだけ」とはいわず、「すごいじゃないか」とほめる。それを繰り返し、社会に少しずつ踏み出せるようにしていくのだ。
これは、人を育てることにすべて共通することだ。子育てにしろ、社員教育にしろ、まず存在を認めてコミュニケーションをし、能力が社会で実践できるようになることを本気で支援することがとても大切なのだ。人とのコミュニケーションの中で成長していく力は本来どんな人間にも備わっている。しかし、それをずっと使うチャンスがなかった人は、どう使えばいいかわからない。使って少しでも成果があってほめられたら、自然に次のステップへのやる気が出るものだ。
人はたくさんの人とつきあっても、たった1人でいてもストレスがたまる。「人間らしい生き方とは?」。引きこもりがクローズアップされる度に、そう問いかけられているような気がする。
---2000.8.10 (c) 2000 by Mica Okamoto ---
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