アレルギーのある子どもの被災
災害時には、食べものや生活用品が配給され、もらえることに感謝しないといけない雰囲気になり、持病や障害、体質などによる訴えは、わがままととられる場合がある。日常的にそういう人たちに接していない人は理解できず、非難の的になったりもする。
日本の全人口の30%を超える国民がアレルギー性疾患に悩んでいるとされているのに、相変わらず理解は深まらない。
子どものアレルギーは、食物などのアナフィラキシーを起こすこともあり、死活問題につながる。
災害時におけるアレルギー対策は、優先順位は高いと思うが、実際には十分になされているとは思えない。
●焦点/アレルギーのある子どもの被災/行政や周囲の理解重要
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20130321_02.htm
三浦克志医師
東日本大震災では、アレルギーのある子どもたちも多く被災した。アレルギー疾患が専門の宮城県立こども病院総合診療科部長・三浦克志医師(47)は「行政や各自の備えのほか、周囲の人たちの正しい理解が重要だ」と強調する。
◎日ごろから連携を/宮城県立こども病院・三浦克志医師
-震災でつらい思いをした子どもは多かった。
「食物アレルギーがどんな疾患なのかを理解してもらえず、『食事を断るのはおかしい』と言われるなど、理不尽な体験をした患者は多かった。急性のショック症状が出た場合、命に関わることを理解してほしい」
-震災後、災害時の対応をパンフレットにまとめた。
「被災地での認知度の低さからすぐに作成した。ぜんそく、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの三つの症状別に、保護者や周囲の人、行政にそれぞれ配慮してほしいことをまとめた」
「例えば食物アレルギーの場合、患者向けには『支援食はアレルギー表示を確認する』、周囲には『ひどいじんましんや強いかゆみが出た時は直ちに医療機関を受診』などと留意点を分かりやすく例示した」
-行政や個人はどんな備えが必要か。
「コメはアレルギーがほとんど出ない食材。自治体は人口の2%を目安に1週間分を備蓄してほしい。乳幼児向けにアレルギー症状が出ない粉ミルクの備蓄も必要。患者家族に保管場所を事前に伝えることも重要だ」
「停電や断水でぜんそく用の電動吸入器が使えなかったり、風呂に入れなかったりすることもある。乾電池やきれいなタオル、薬も半年分程度を用意した方がいい」
-周囲の理解をどう得るか。
「アレルギー患者が食べられるメニューの炊き出し訓練をしたり、アレルギー患者を示すプレートを避難所に用意したりしてアレルギーの認知度を上げてはどうか」
「東北地方は災害弱者が声を上げず、我慢することが多い。患者と支援団体、専門家、行政が連携し、日ごろからネットワークを築くことが必要だ」
<みうら・かつし>1965年生まれ。東北大医学部卒。日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会指導医・専門医。2003年から宮城県立こども病院勤務。09年から現職。塩釜市出身。
2013年03月21日木曜日
●焦点/食物アレルギー対応急務/避難所食料、子どもに深刻症状例
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20130321_01.htm
卵や牛乳を使わない商品が並ぶヘルシーハットの店内。震災直後はアレルギー症状が出ない食品の入手が難しかった
東日本大震災の発生直後、食物アレルギーのある子どもの親たちは避難所などで周囲の理解が得られず、食料の確保に苦労した。アレルギーに配慮した支援物資は少なく、誤って口にして深刻な症状が出た子どももいた。支援団体は「アレルギー患者も災害弱者。正しい理解を」と訴える。震災を教訓に、アレルギー症状が出ない非常食を備える自治体も出てきた。(田柳暁)
◎支援団体「災害弱者位置づけを」
<選択の毎日>
「空腹を我慢させるか、症状が出るのを覚悟して食べさせるか。難しい選択の毎日だった」。震災後の1カ月間、避難所に身を寄せた気仙沼市の会社員横山芳恵さん(49)が振り返る。
長女(17)と次女(15)は小麦や卵のアレルギーがある。支援で届く菓子パンや即席麺は口にできない。おにぎりを中心に食べ、炊き出しの豚汁は野菜だけを拾うようにして口に運んだ。
避難所では、アレルギーがあることを伏せていた。「アレルギー患者は2人だけ。打ち明けても、好き嫌いやわがままとしか思われないのではないか」。物資が限られ混乱が続く避難所では、周囲の視線を気にせざるを得なかった。
食物アレルギー患者は乳児で5~10%、幼児で5%、学童以上で2%前後とされる。
宮城県立こども病院の調査によると、支援物資の菓子や炊き出しを食べ、じんましんが出たり吐き出したりする子どもが少なからずいたという。
呼吸困難や意識障害などの激しいショック症状が出た例もあり、石巻市では卵アレルギーの男児(10)が間接的にゆで卵に触れて発症。薬剤注射後に救急搬送し、一命を取り留めた。
<仕組み必要>
誤食は死に至るケースもある。東京都調布市では昨年12月、乳製品にアレルギーがある女児(11)が給食後に発症して死亡した。
仙台市宮城野区のアレルギー対応食品専門店「ヘルシーハット」社長の三田久美さん(57)は「周囲の理解が十分でなく、つらい思いをした子どもは多い。災害時に支援が必要な弱者として位置づけるべきだ」と訴える。
アレルギーへの理解を深めるため、専門知識を持つ人たちとの連携も欠かせない。
三田さんは「アレルギーのある子どもを把握する学校は、緊急時でも配慮できた。日ごろから医療機関や支援団体とネットワークをつくり、きちんと把握する仕組みが必要だ」と強調する。
<備蓄始まる>
震災を教訓に被災自治体では、アレルギー症状が出ない非常食の備蓄も始まった。石巻市は4年間で備える5万食のうち、4%をアレルギー対応にする計画で、既に約200食を配備した。東松島市は本年度内に対応食3760食を購入する。
備蓄を進める自治体にも課題は残った。仙台市と気仙沼市は震災前からアレルギー対応の非常食を備えていたが、震災時にスムーズに届けられなかった。
仙台市の担当者は「各避難所に一定量を保管していたが、広報が十分でなかった。今後は備蓄だけでなく、周知にも力を入れたい」と話す。
2013年03月21日木曜日