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セクシャル・マイノリティの人権尊重と支援の輪を広げる

09.28.2012 · Posted in Interview

岩手レインボーネットワーク代表 山下 梓さん

●LGBTの支援のために

「アメリカやヨーロッパには、LGBTがたくさんいると言う人がいますが、実際には、どの地域でも人口の4~ 10%いると言われています。カミングアウトしやすい環境かどうか、許容される社会かどうかで、見えるか見えないかが違う。日本には、あまりいないと思われているのは、よほど抑圧的な社会である証拠です」。

山下梓さんは、海外のLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)に関する情報サイト・アドボカシーグループ『ゲイジャパンニュース』を運営している。また、3・11の直後の3月19日にLGBTのネットワーク『岩手レインボー・ネットワーク』を友人と立ち上げた。元々、岩手には、LGBTのグループがなく、グループを作る準備を始めていたところ震災が起こり、LGBTにフレンドリーな避難所やトランスジェンダーとわかっても下着を分けてくれる場所などの支援情報の提供をブログで始めた。

 

●日本のLGBTの実際

一般的には震災時、性的マイノリティの人たちは、同性パートナーが津波で流されてもその死を知らされない、トランスジェンダー(性自認が身体的性別と対応しない状態)であるために避難所のトイレや風呂の利用を制限される、同性パートナー同士で家族として仮設住宅に入居できない等、声もあげられず、大変な生活を強いられていると考えられる。しかし、今回の震災では被災LGBTがほとんど見えなかった。

「岩手では、自分がLGBTであることを家族にも、友人にも話していない人は多い。たとえ、告白したとしてもなかったことにされて『いつ結婚するの?』と親に聞かれたり、『いつか変わるかもしれないから、自分で決めつけないで』と言われた人もいます」。


LGBTの人のなかには、都市部に出てくる人も少なくない。
「知り合いに会う確率が少ない反面、同じような人と会える場が多いため、周りの目を気にしなくてもいいという理由から、家族と住みたい気持ちを抑えて妥協するか、家族の期待を受け家族と一緒に生活しながら二重生活のように送るか、簡単に決められる問題ではありません。もちろん、家族に受け入れられて、うまくいっている人もいないわけではないですが、家族に言わず苦悩しながら暮らしている人が多いですね」。

『岩手レインボー・ネットワーク』のブログには毎日100〜200のアクセスがあるが、会合に参加するのは10数人程度の当事者や支援者である。

「当事者とわかると都合が悪い人や、参加したいけれど知人に見られたら、どう説明していいかわからないという人も。こういう活動に関わっていることをどう思われるか、不安が募るようです。私自身はバイセクシュアルの当事者ですが、関わりたい人たちには、『当事者といわずに支援者といっていいんだよ』と話しています。実際に参加しなくても、もう少しつながりを広げることができればと思います」。

2011年12月に開催された人権政策フォーラムで「災害とマイノリティ」というテーマで講演。

 

●家族のあり方に疑問を持つ

山下さんが、この問題に関心を持ったのは、高3の時に母が離婚し、家族のあり方を改めて考え始めた頃に出会った新聞記事がきっかけだ。

「お互い結婚していたことがある日本のレズビアンのカップルが、子どもを連れて一緒に暮らし始めた。彼女たちが、この関係性を子どもが大きくなった時にどう説明しようか、学校の先生や友達の保護者にどう説明しようかともがいている記事を読み、この人たちは全然おかしくないのに、なぜ、これほど苦悩しないといけないのかと思ったのが始まりです」。

日本の民法への疑問から同性婚について学びたいと法学部に進んだ。大学2年時にカナダに留学した際、同性婚法制定に向けた議論を目の当たりにし、日本に帰国してもこの問題に関わりたいと考えていた頃、東京在住の日本人とアメリカ人のゲイのカップルがスタートさせた『ゲイジャパンニュース』を知る。

「判決に関する翻訳が多く、法学の訳語が気になってメールしたのがきっかけで、海外のLGBT関係の情報を日本語に翻訳するボランティアとして手伝い始めました」。

山下さんは、2008年には国連のUPR(普遍的定期的審査:国連加盟国の人権記状況の改善や人権侵害への対処のための見直し)にNGOレポートを提出。2009年のニューヨークでの女性差別撤廃条約の審査には、LBTについてNGOレポートをまとめた。日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)の当初の提言からLBTの内容は抜け落ちていた。

「JNNCの提言には、LGBTの問題に詳しい弁護士の方が代表にLBTの内容を入れるように指摘してくださり、ようやく盛り込まれました。この問題は、当事者まかせになりがちなので、当事者として発言を増やしていく必要があると思っています」。

 

●性別で括れない問題

生まれつきは女性、自認は男性だが、親に決められた結婚をして出産、妻と母と嫁をやりながら家族に知られないように、岩手レインボー・ネットワークに支援者として関わっている人がいる。

「彼が、もし女性としてDVにあったら、どこが保護してくれるんでしょうか。胸はついたままなので、女で通用するのかもしれないが、本人は女とはこれっぽっちも思っていないんです」。

また、山下さんは、性暴力被害者を支援している女性団体の関係者に、LBTの人が助けを求めた場合どうするかと質問したところ「セクシャリティなんて関係ない。女性なら支援する」と言われて愕然としたという。

「例えば、女性同士のカップルの間でDVがあったらどうするのだろう? また、身体は男性だが、性別自認は女性のトランスジェンダーの人が性暴力を受けてきたら、手術していなければ、性別変更の申し立てもできず戸籍上は男性なので、女性シェルターでは受け入れてもらえない、といったセクシャリティに関する問題があります。単純に『女性なら受け入れる』では済まされないのに」。

そのような現状でLBTの支援を進めるには、女性運動に関わっている人たちに理解して欲しいという思いがある。

「どのエリアにも女性センターや男女共同参画センターやシェルターはあるので、LBTの性被害に関しては、すでにあるリソースを活用するか、拡充してもらうのが現実的だと思っています」。

2009年に女性差別撤廃条約に関する日本審査があった際のニューヨークでのサイドイベントにて。国際人権NGOであるIGLHRCのアジア太平洋諸島地域プログラムコーディネーターグレース・プーアと。(写真提供=IGLHRC)
 

●社会の認識を変えるには

2004年に性同一性障害特例法が施行され、2010年には学校に性同一性障害の生徒がいる場合は、その子の心情に配慮してカウンセラーを配置するよう文科省から通達が出され、性同一性障害への社会的認知も少しずつ上がってきたが、実質的に去勢した状態でないと性別変更はできないなど問題は多い。

テレビに「ニューハーフ」やオネエ系の芸能人などがよく出るようになり、セクシャル・マイノリティの人も暮らしやすくなったという人もいるが、実際には相変わらず嘲笑の対象とされ、まだLGBTがありのままで生活できるような社会ではない。

「男性から女性に移行したモデルさんが出演していたバラエティ番組で、見た目はどこから見ても女性なのに、『結局、おまえは男だ』と笑いのネタにされていて信じられなかった。彼女も笑って流したんですが、国が違えば人権問題です」。

日本人の人権感覚の低さに加え、仕事で出演している以上、訴えたりしたら仕事がなくなる可能性もある。

また、日本では依然、性別役割分業の意識が強い。
「日本は、黙ってご飯が出てくるのを待つ男が多すぎます。田舎の法事では女だけが働き、男は座って飲み食いする。愚痴をいいつつも、誰もこの慣習を止めようとしない。だから、災害時には、炊き出し=女、になってしまう。海外の普段からキッチンに立つ男性が多い国なら、男女関係なく支援を行うでしょうね」。

セクシャリティに関する対応は、社会的認知の浸透、法制度の整備、価値観や社会的背景が変わるように、それぞれの立場で動いて行かないと簡単には変わらない。山下さんは、「時間は、すごくかかると思う。かかっても、少しずつ変わればいいな」とライフワークとして取り組む覚悟だ。

同調意識の強い日本では、昔から続く価値観に苦しむ人は少なくない。どんなセクシャリティを持っていても、自由に生き、幸せになる権利は誰にでもある。まず、あらゆる差別に疑問を持ち、自らの意識を変えることが、よりよい社会につながる一歩になるにちがいない。

 

山下 梓 さん
岩手レインボー・ネットワーク(http://ameblo.jp/iwaterainbownetwork/)代表。ゲイジャパンニュース(http://gayjapannews.com/)共同代表。
新潟大学法学部卒。大学在学中からLGBTの人権問題に取り組み、卒業後、人権市民会議に入り、国内人権機関をつくるための調査活動などを担当。2005年から、ゲイジャパンニュースにボランティアとして参加、2008年より共同代表。2010年より、岩手大学男女共同参画推進室特任研究員。2011年3月、岩手レインボー・ネットワークを立ち上げる。東日本大震災女性支援ネットワーク世話人。LGBTの人権保障のために精力的に活動中。共訳書に「女性への暴力防止・法整備のための国連ハンドブック」がある。

 

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2012年8月号に掲載されたものです。

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