fine-club.project approach with well-balanced mind for a balanced life

女性の人権を尊重し 男女共同参画社会の実現を

12.20.2012 · Posted in Interview

NPO法人 ウィメンズネット・こうべ代表理事  正井 礼子さん

●女性をエンパワメントする活動

「日本の女性が様々な問題を抱えながら声をあげられないのは、男女格差と経済的理由が大きい。男女は対等だという意識の人が増え、制度を整え、女性を応援する男性がもっと増えていかないと」。

正井さんは、様々な女性問題に取り組み、DVや暴力の被害女性たちの支援活動を続けてきた。現在は、DV相談、同行支援、シェルター「ともだちの家」の運営、生活再建の支援まで行なっている。またDV防止教育にも取り組み、8万人の中学・高校・大学生にデートDV防止授業を提供している。

 

●女性の駆け込み寺を開設

正井さんは、子育て・介護を経て、伊方原発反対運動に参加。80年代に各地で女性センターが設立され、女性が学ぶ権利が保障されていることを知り、1991年に「兵庫県に女性センターをつくる会」を立ち上げた。そこで出会ったフェミニストたちに女性問題や女性の視点を学んだ。行政交渉を続ける一方で、92年に「ウィメンズネット・こうべ」を立ち上げ、女性問題の学習会などの活動を始めた。

93年には、地域の女性たちの活動や女性の本音を集めた小冊子『兵庫発 女の伝言版』を発行。
「専業主婦は家で孤立し、働いている女性は仕事と家事に追われ、女性たちはつながっていないことを痛感した。女性たちが本音で語れて、エンパワメントされる場所があればいいね」とメンバーでお金を出し合って1軒の家を借り『女たちの家』を開設した。

半年過ぎた頃、「誰にもいえないが、長年にわたり夫にひどい暴力を受けている」という電話が次から次へ入ってくるようになった。なかには「お母さんが殺される。助けて!」という娘さんからの電話も。

その頃、DVという言葉もシェルターという言葉も知らなかったという。彼女たちに、逃げておいで、といえる場所をつくろう、と募集をしたところ、広い空き家の申し出があり、94年12月に引っ越した。

「『500円で誰でも泊まれます』、と会報誌12月10日号に載せて最初に連絡があったのは地域でも尊敬されている働く女性で、『仕事をしているから生意気だ』と15年も夫の暴力に苦しんでおり、3人の子どもたちも虐待を受けていました。私たちはこれから駆け込み寺のような活動をしていくんだろうなとメンバーと話していた矢先に阪神大震災が起き、この『女たちの家』は周辺の土地が崩れたため閉鎖しました」。


DV被害者サポーター養成講座。

 

●日本の男女格差

阪神大震災後、マスコミは、家族愛や奉仕の精神などの美談ばかりを書きたてたが、実際に正井さんたちの耳に入ってくるのは、女性たちの困難だった。2月16日「女性支援ネットワーク」を発足し、被災女性を支援するとともに、女性たちの本音の聞き取りを始め、1996年1月17日に80名もの女性の声を集めた『女たちが語る阪神大震災』を発行した。

「当時、10万人もの女性パートが解雇され、それを女性記者が記事にしようとしたら、男性デスクが『女性はさっさと再婚すればいいじゃないか』と記事になりませんでした。一方最近では『男性8000人解雇』という記事が新聞一面のトップになっています。。あくまでも女性は補助労働の扱いなんです。テレビでは、男性はがれき処理や救援、女性は炊き出しや買い物、性別役割を印象づける報道ばかり。16年たった今回の東北の震災でも全く同じ状況で性別役割分業が強化され、男性はがれき処理や仕事、女性は避難所や仮設の整備されない環境下での家事・育児・介護などケア役割で負担は大きく、体調悪化が心配されます。」。

阪神大震災時、女性が男性より1000人多く亡くなっている。シングルマザーや高齢女性たちは古い木造アパートにしか住めなかったために、大きな被害を受けた。「当時のシングルマザーの平均所得は、全国平均の3割で、今でも増えてはいない。収入の低さは、住居の貧困につながります。『賃金は半分でも家賃は平等なのよね』という人がいましたが、震災時、安全な家に住んでいたら被害はもっと少なくて済むはず。現在、世界の男女格差ランキングで135カ国中、日本は98位。日本には社会階層がないといわれますが、日本には、男という階層と女という階層があるのだと、あの地震でつくづく思いました」。

 

●災害時の女性への暴力

当時、正井さんが行なっている女性のための電話相談の6割近くがDV相談であり、今も相談は増え続けている。

「震災後、DVの電話は次から次にかかってきました。避難所で性被害が起きて行政の担当者が呼ばれていくと、避難所責任者が『加害者も被災者だ。大目に見て欲しい』と言ったというのを聞いて愕然としました。女性が性被害にあったという噂がありましたが、兵庫県警は『1件もない。デマである』と否定しました。当時、災害時に女性たちに対する暴力があるなんて思われてなかったし、あってもなかったことにされました。女性の人権侵害については何も語られないままでした」。

今回の震災後の東北に行った正井さんは、「DV法ができ、暴力は問題だという啓発ポスターが貼られ、女性は守るべき存在だということは以前よりは認識されたかもしれない。しかし、DV殺人は起きたし、DV相談は増えており、支援に行ったボランティアがセクハラを受けた例なども聴き、避難所の運営に女性の姿が見えない状態などは16年前とほとんど変わっていない印象です」と語る。

「セクハラ防止研修は男性も女性も受けるべき。なぜなら、何がセクハラにあたるかを知らない人がまだまだ多い。アメリカのDV防止教育では、女の子には『もっと自己主張していい』と後押しするエンパワメント、男の子には、すでに社会からの後押しがあるので、『パートナーをリスペクトしなさい』と教えるんです。対等な関係に暴力は起きません。相手に敬意を持ち、男女は対等なのが当然という意識が非常に大事だと思います」。

.東日本大震災女性支援ネットワークの報告会「被災地の声を政策に」。

●女性の声が社会に反映されるには

正井さんは現在、某市の復興会議のメンバーの1人である。40人中、女性は8人で他地域と比べると女性の数は多い。しかし「会議では、『土砂崩れが起きたら』『ライフラインが途切れたら』『道路が寸断されたらどの道路を使うか』などハード面の議題が多く、女性が意見を述べにくい。避難所や仮設住宅の既存の運営マニュアルに、女性の意見をいかに反映するシステムをつくるかを要望したくても、その見直しは議題に入っていません。防災について女性の視点との違い、男性には見えない部分がたくさんあるのだと痛感しました」。

震災で火災がひどかった神戸・長田の町は8年間何も建てられず、30m幅の防火道路が造られたが、道幅が広すぎてお年寄りは一気に渡り切れない。駅前の高層ビルのテナントは埋まらず、静まり返った町に震災前のようなコミュニティはできず、「女性がまちづくりに参加して発言していたら、暮らしのなかの視点を取り入れることができ、もっと住みやすい町になったはずなのに」と惜しむ。

東北の震災後、岩手の復興会議には当初女性はゼロだった。その後、女性たちが声をあげて、ようやく女性メンバーが入ったが、東北全体でも全体の1割程度にすぎない。正井さんは、「制度をつくる場、政治の場に女性がいなければ、制度そのものをつくることができません。ニュージーランドには女性省があり、法案策定の際、女性に配慮していない法案だと成立しないし、フランスには、議会はもちろんあらゆる分野に男女同数にするパリテ法があります。世界は男女共同参画に向かっていますが、日本はあまりにも遅れている」と指摘する。

日頃から女性が暮らしにくく、生きづらい社会で、災害時だけ女性の人権や福祉が守られることはありえない。災害時には、平時の問題がさらに顕在化してしまう。

「普段から福祉を充実させ、女性や子どもが安心して暮らせる社会が構築されて初めて、災害時に活きる。議会だけではなく、企業や行政など、あらゆる意思決定の場に女性が参加し、女性の意見が反映される社会こそが、結局は災害に強い社会になるのだと思います」。

阪神大震災の教訓が東日本大震災に活かされていない現実、防災復興への女性の参画が進んでいないことは、非常に大きな問題である。地震国日本で、政治や行政まかせにせず、女性ひとりひとりが自らこの状況を変えていくアクションを起こす必要があるのではないだろうか。

 

 正井礼子さん
NPO法人 女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ(http://wn-kobe.or.jp/)代表理事。三木市男女共同参画センター 女性問題相談員。
1992年、市民グループ「ウィメンズネット・こうべ」を発足。94年、「女たちの家」開設。震災直後、「女性支援ネットワーク」をたちあげ。96年「神戸・沖縄 女たちの思いをつないで」~私たちは性暴力を許さない!集会を女性団体と共催。2005年にシンポジウム「災害と女性」~防災と復興に女性の参画を~を開催。HP「災害と女性」情報ネットワーク(http://homepage2.nifty.com/bousai/)を開設し、女性の視点からの防災・復興に関する情報発信、全国各地で講演活動を行う、東日本大震災女性支援ネットワークの世話人。

 

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2012年10月号に掲載されたものです。

Leave a Reply

WP-SpamFree by Pole Position Marketing