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電話で届く子どもの生の声を伝え、子どもが生きづらい社会を変える

11.27.2011 · Posted in Interview, 子ども

認定NPO法人 チャイルドライン支援センター
専務理事・事務局長 太田 久美さん

●子どもたちの声を社会に反映

「誰でも、わが子は大事。わが子だけ良ければいいという人が増えているが、わが子と同世代の人たちが生きる時代が、安心・安全・豊かでなければ、必ずわが子に跳ね返ってくる。だから、わが子だけでなく、みんなが幸せになれる社会を作っていかないとダメなんです」。

『チャイルドライン』とは、18歳までの子どもなら誰でも、全国どこからでも、自分の気持ちや抱えている問題などについて自由に話すことができるフリーダイヤルのこと。認定NPO法人 チャイルドライン支援センターは、全国44都道府県の74のチャイルドライン(2011年6月1日現在)の活動をネットワークし、チャイルドライン全体の広報や研修を担当している。ヨーロッパから発祥したチャイルドラインは、英国ではその番号を知らない子どもはいないが、日本では知名度が低い。子どもの世界で起こっていることは、社会を映すといわれるが、太田さんは、子どもたちの声から、多くの子どもたちが置かれている状況を社会に伝え、生きやすい社会づくりのために活動している。


チャイルドライン支援センターのカード。

 

● 合意形成の難しさ

いじめが深刻になってきた90年代後半、国会議員や世田谷の市民が、97年にイギリスチャイルドラインの視察、98年には超党派の議員連盟『チャイルドライン設立推進議員連盟』が結成された。98年3月、世田谷で2週間の特設ラインが開設され、99年1月には、チャイルドライン支援センターが立ち上がった。

親子での芸術鑑賞を推進する特定非営利活動法人子ども劇場おやこ劇場 埼玉センターの代表理事として活動していた太田さんは、「15年間NPOで子どもたちの悩みに接してきて、チャイルドラインのような活動が今の日本に必要」と感じ、さいたまのチャイルドライン設立に動いた。

「子ども支援の輪を広げていくには、私の子どもだけでなく、社会全体の子どもを一緒に育てていこうという運動にしないといけない。その運動は、ひとつの団体が自分たちの価値観だけでやるべきではない」。太田さんは、今までの組織から出て、できるだけ多くの団体の人たちと一緒に創っていこうとしたが、その道のりは簡単ではなかった。

「社会への問題意識を持って様々な活動してきた人々が集まると、同じ日本語を使っていても、価値観は微妙に違い、温度差がある。『電話の受け手が、指示命令説教をしない』というチャイルドラインの理念ひとつに対しても、本人は指示命令しているつもりはなくても、周囲から見れば指示命令を与えている人がいるように、言葉ひとつでも大きな違いがある。組織をまとめるにはトップダウンも必要ですが、メンバーに不全感を残したままではいけない。メンバーの合意形成にとても苦労しました」。

そこで太田さんは、広告関係のプロに団体のコンセプト作りのワークショップを依頼した。「どのような団体にすべきか、広報をテーマに自分の思いや視点を色やイメージなどで表現しながら話し合いました。3ヶ月間続けるうちに、自分や他人の性格や思考のクセを再認識しつつ、仲間の気持ちをわかりあえる間柄に。社会に対する問題意識の高い人ばかりですが、使命感を少し横に置いて考えることが大切だったと思います」。


「電話の受け手は、『私がなんとかしてあげる」』という救済者になってはいけない。自分たちのできることに限界はあるが、気持ちを聴いていく、つらい思いを聴いていくところに限界はない。そこに立ってもらうことがとても大切」と太田さんは言う。

 

●不安・孤独・生きている意味がわからない

子どもたちは、人間関係で悩む声が多い。特に女の子から「友達が一緒に帰ってくれなくなった」「口を聴いてくれない」という電話が10年前から増加したという。

「10日も1ヶ月も続いたから悩んでいるのかと思っていたら、”たった今”や”今日”のことで悩んでいることに気づいた。電話の受け手は『なぜ、悩むんだろう。様子を見ればいいのに』と思っていたのですが、子どもたちはいつ自分がいじめの対象になるかという緊張感に常に晒されていることがわかってきたんです」。

最近はさらに悪化し、「今日クラスで話したことが、どう思われたか心配。友達にどう話しかけていいかが気になって眠れない、という明日学校に行くのが不安だという電話が増えていて、人間関係の厳しさが一層増しているようです」と危機感を募らせる。

リーマン・ショックの翌年の2009年、全国のチャイルドラインのアンケート調査結果の上位は、「生きていてもしょうがない」「自分に自信がない」「人の目が気になる」「傷つきたくない」「さびしい、孤独、不安」。最近は、イライラ怒って電話してくる子が増えている。

「子どもたちが、認められてないんです。学校や家庭で『よくやったね』『がんばったね』という声をかけてもらってない。なぜなら、電話の受け手が『よくがんばったね』と声をかけると泣く子たちがいる。そのくらい、その言葉に飢えているんです」。

その背景には、偏差値教育の減点方式で評価されることが、自己肯定感の低さにつながっていると太田さんは分析する。

「今の子どもたちの母親も偏差値世代。わが子をどういう風に認めてあげればいいのかわからないんだと思います。そして、同じことが繰り返され続いていく。『褒めて育てる』とよくいわれますが、『認めて褒める』『応援する』のは、心底そう思っていないとダメ。口先だけで褒め育てをしようとしても、子どもは見ぬいてしまうんです」。


「子どもの心のSOSに寄り添って」「子どもとのかかわり合いの知恵」などの演題で、子どもの現状やチャイルドラインから見える子どもの気持ちを伝え、親・大人としてどうかかわっていくかを見つけるための講演を行なっている。また、「聴く」体験のワークショップなども開催している。

 

●厳しさを増す子どもの状況

子どもたちのいじめ自殺のニュースが流れると、同じような状況の子からの電話が一気に増える。電話の受け手が、涙ながらに「よく生きていてくれた」と応えることも少なくない。

「いじめは人権侵害、一生に関わることです。いじめから精神を病み、つらさを抱え込んでいく子どもたちがたくさんいます。いじめは決して特殊ではないということ、いじめの座標は、いつ変化し逆転するかわからないということを大人たちに理解してほしい」。

太田さんが講演する時には、常にいじめの被害者と加害者、両方の視点から話をする。
「電話は被害者からかかってくるのがほとんどですが、加害者であることがわかっても一方的に責めるのではなく理由を聴くべきです。原因は保護者にあるかもしれず、子どもと向き合うチャンス。周りの大人が変わらなければ、この状況は変わらない」。

最近は、ひとり親家庭の貧困に悩む電話も増えている。「進学をあきらめないといけない」「お父さんと仲良く遊んだという話も話せない」という電話だ。

「リーマン・ショックの後、メディアは非正規雇用の悲惨さを垂れ流した。それを見ていた子どもたちは、正社員になりたくてもなれずに非正規雇用で社会に出ていった。最初から自分が負け組みなんだと思って出ていく子どもたちの気持ちがわかりますか?若者に仕事がなく、給料が少なければ、子どもなんて産めませんよ」と社会の歪みが、子どもにしわ寄せされる現状を憂う。

 

● 政策提言を強化

子どもたちの厳しい状況を変えるために、太田さんは、チャイルドライン支援議員連盟の勉強会で子どもの現状を話したり、各地で講演を行う他、文科省が始めた『子どもを見守り育てるネットワーク推進会議』内の1つの分科会の座長も務める。

「行政と民間がバラバラに活動しても限界があります。『子どもを見守り育てるネットワーク推進会議』には、省庁が横断的に関わり、民間団体、社団法人、医療法人、PTA連合会などが加わり、閉塞感が打開されつつあります。チャイルドラインで受けた20万を超える子どもの声を元に、他の団体とも状況分析を重ねつつ、政策提言を強化していきたい。それを行政や政治家が活かすという有機的なつながりが今、求められていると思います」。

東日本大震災後、経済も暮らしも厳しさが増す社会の狭間で、声をあげられず苦しみ悩む子どもたちは、さらに増えるかもしれない。将来を担う子どもたちに、ツケを回す今の社会の在り方はおかしい。大人たちは、我が身を保守することだけを考えるのではなく、子どもの声に耳を傾け、日本の未来のために何をすべきか考えるべきではないだろうか。

 

太田 久美さん
認定特定非営利活動法人チャイルドライン支援センター(http://www.childline.or.jp/)専務理事・事務局長。
特定非営利活動法人さいたまチャイルドライン
http://members2.jcom.home.ne.jp/scl/)代表理事。
1952年長野県生まれ。2001年さいたまチャイルドラインを開設。共著にチャイルドライン支援センター編「子どもの声に耳をすませばー電話でつくる〈心の居場所〉」(岩波ブックレット)がある。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2011年10月号に掲載されたものです。

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