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性暴力に遭った人が、自信をもって人生を送るために

01.07.2012 · Posted in Interview, 女性問題

特定非営利活動法人 しあわせなみだ  代表 中野 宏美さん

●性暴力ゼロを実現するために

「性暴力に遭った人は、そこで人生が終わりではない。もう一度元気を取り戻し、輝いて、幸せな人生を送ってほしい」。

中野宏美さんは、性暴力に遭った人、その家族やパートナーが流す「かなしい涙」をうれしい時に流す「しあわせなみだ」に変えるという思いを込めて、『しあわせなみだ』を立ち上げた。その活動は、ブログでの情報発信や公的機関への研修など性暴力ゼロのための啓発活動「リボリューショナリー・ティアーズ」、性暴力に遭った女性や子どもを美容で輝かせる「ビューティフル・ティアーズ」、ウェブサイトを通じた性暴力ゼロに関する情報のプラットフォーム構築、裁判支援、メール及びスカイプカウンセリングで性暴力に遭った方を支援する「チアリング・ティアーズ」の3つがある。

性暴力に遭っても警察に届ける女性は13.3%しかいないという現実から、性暴力に関する正しい情報を拡げるとともに、被害者が健康を取り戻し幸せに暮らせるための支援活動を行なっている。


10月29日に行われたシンポジウム「東日本大震災 私たちだからできること」では、主催者として活動内容などを報告。

 

●性暴力をなくしたい!

大学で福祉を専攻した中野さんは、社会福祉士になるために母子生活支援施設と児童養護施設で実習を行った。「安心して暮らせるはずの家庭がなぜ、
暴力の場になってしまったのか。暴力に遭った人をケアしていくのは大切だけれど、そこでケアをするばかりでは、いつまでも暴力はなくならない。根本的に性暴力をなくさないとダメだ」と憤りを感じた。そんなとき、友人がデートDVに遭い、身を隠すように仕事を辞め、実家に帰ってしまった。

「彼女は何も悪くないのに、周囲は『そんな男性を選んだ彼女が悪い』という風潮。絶対におかしい!」友人のような被害者が仕事を辞めずに働き続けるにはどうすればいいのか考え続けながら何もできずにいたところ、レイプに遭ったある女性が、実名と顔を出して書かれた手記『性犯罪被害にあうということ』(朝日新聞出版)に出会う。

「心身をひどく傷つけられ、未来も考えられなくなるなんて… なんとしても性暴力をなくさなければ!」と強い思いを抱き、2009年1月にブログを開始、『しあわせなみだ』を立ち上げた。

 

●キレイになることで自信を

性暴力に遭った人の支援として、すでにシェルターやカウンセリングを行なう団体があるなかで、中野さんは、「被害に遭った直後の支援を行う団体は多いが、その次の段階の支援をする団体は皆無に等しい。性暴力に遭った人は、人生のなかで性暴力に遭ったことだけにスポットが当たってしまう。でも、人生80年とすれば、20歳でレイプに遭ってもあと60年くらい生きることができる。40歳でDVに遭っても残り40年の人生がある。性暴力に遭った時点で人生が終わるわけではない。その後、再び自信を取り戻し、生まれてきて良かったと思える人生を送るための応援をしたい」と考えた。

そこで、施設で暮らす女性・子どもを、ヘアサロンのアシスタントのカットモデルとして紹介する事業『ビューティフル・ティアーズ』を始めた。施術料は無料〜安価。スタイリストとしてデビューするまでに50〜200人のモデルで練習しなければならないアシスタントにとって、カットモデルの紹介はとてもありがたいうえに、受けた人からの意見のフィードバックは、カットや接客のスキルアップにつながる。どちらにもメリットがある。

「被害女性は自尊心が傷つき人を信用できなくなっている人がほとんど。サロンに行くと、いろいろと話を聞いてくれて、似合うヘアスタイルを考えて髪の毛を切ってくれる。自分のために一生懸命になってくれる人が存在すること自体が元気づけられるんです。また、DVに遭った人は、暴力的な男性に怯え、『二度と結婚しない、恋愛しない』と思っている人が多いのですが、暴力を振るうことなく話を聴いてくれる男性アシスタントと接することを通じて、人を信じることや新しい人生を考えるきっかけになったら、とてもうれしいですね」。

ヘアサロンはただ髪型を整える場所ではなく、外見を美しくすることで、自信や前向きに生きる勇気を与え、新たな人生を切り拓くエッセンスをもらえる場所でもある。現在は、7施設7サロンで行なっているが徐々に増やす予定だという。


提携ヘアサロンでは、無料〜格安でアシスタントさんにカットモデルとして施術を受けられる。

 

●震災時の暴力防止の啓発活動

東日本大震災直後、『しあわせなみだ』を含む3団体で『震災後の女性・子ども応援プロジェクト』を立ち上げ、被災後の性暴力被害を防止するための啓
発活動を行なってきた。このプロジェクトでは、啓発カード4万枚以上を被災地やボランティアなどに配布して暴力防止を呼びかけたほか、化粧品会社から寄付された女性用物資を各避難所に送った。

被災地では、停電や建物の死角が増え、避難所やトイレ・お風呂なども男女共同になる環境の下、性暴力が起こりやすくなる。しかし、防止のために環境整備を訴えても『わがままいうな』、被害にあっても『命があるだけマシ』、『性暴力くらい我慢しろ』という雰囲気になりがちだ。

「この活動で、平時の安全・安心のまちづくりが、非常時の安全・安心のまちづくりにつながるのだと改めて感じました。町に暗がりがないか、公園に死角がないかなど、平時からまちづくりや防災計画に女性の視点を入れておくことがとても重要」と中野さんは語る。

被災時には、平時の問題が顕在化する。つまり、平時にも性暴力が起こっているのに隠され、徹底した対策をとられていないために、震災という非常時に
は性暴力が増えてしまう。平時から安全対策にもっと取り組まない限り、被害は減らない。

「誰でも被害者になる可能性があるにも関わらず、性暴力に対する誤解や偏見があり、被害に関係がない人にはいくら呼びかけても耳を傾けない。しかし、東日本大震災は、誰もが注意すべきだと知って考えてもらえる機会になった」。このプロジェクトの活動は、被災地の性暴力をなくす予防啓発活動を目標に掲げていたため、2011年10月末で終了した。


「震災時の女性・子ども応援プロジェクト」で4万枚以上配布した啓発カード。手のひらサイズで、必要な情報がコンパクトにまとめられている。

 

● 性暴力問題の難しさ

性暴力の問題は、戦後の男女平等を主張するフェミニズム運動家たちによってかなり改善されてきた。ただ男女平等の観点からだけでは性暴力の問題を解決することは難しいのが現実である。

「性暴力の被害者には男性もいますし、セクシャルマイノリティの被害リスクも大きい。男女平等やジェンダーだけで割り切ることはできません」。また、フェミニズム派には、「化粧や着飾ることは男性のための女性らしさのアピール」という思想があり、女性が美容の力を借りてキレイになることで自尊心を回復できることが理解されにくいため、このような考え方の活動家からは、『ビューティフル・ティアーズ』をよく思われない面もあるのだという。

一般の犯罪は加害者が非難されるが、性暴力の場合は被害者が世間から責められ、つらい目に遭う。
「性暴力問題で活動しているのは被害に遭った当事者が多いのですが、当事者は心身の不安定さや外部からの圧力でバーンアウトして、活動が続けられ
なくなることが少なくありません。また、私のように当事者でない場合には『当事者じゃないのに何がわかるんだ』と周囲からの風当たりも強い」。しかし、中野さんの活動は3年目を迎え、周囲の目が変わってきた。

「性暴力に遭った人は、なかなか人を信頼できない。支援活動の成果につなげるには、どんなに細々とでも活動を続けることが大事だと思っています。男女を問わず性暴力ゼロをめざし、被害者ひとりひとりが自分の幸せを取り戻すための支援、そして性暴力を許さない風土を醸成し、性暴力をゼロにする活動に重点をおきたい」と中野さんは言う。

女性にとってキレイになれることは多くの人から共感を得ることができる。美容と元気になることを関連づけることで、性暴力問題の認知や理解が増えれば、結果的に被害防止にもなるとともに、被害者が生きづらい社会が改善することにもなる。被害者に配慮しながら問題を陽の当たる場所にあげ、被害をなくす取り組みについて議論し実現することが重要である。被害に遭ったとしても、その後の人生を幸せに暮らせるための支援の手を差し伸べる人が増えていくことを期待する。

 

中野 宏美さん
特定非営利活動法人 しあわせなみだ(http://shiawasenamida.org/)代表。
東洋大学大学院社会学研究科修了。「2047年までに性暴力をゼロにする」ことをめざし、2009年「しあわせなみだ」を立ち上げる。東日本大震災を機に立ち上げた『震災後の女性・子ども応援プロジェクト』共同代表。社会福祉士。

 

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2011年12月号に掲載されたものです。

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