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社会を変えるきっかけのために 社会人へボランティア紹介

02.06.2012 · Posted in Interview

NPO ソーシャルマーケティングジャパン 代表 玄道 優子さん

●パラレルキャリア支援

「今まで社会問題にそれほど関心のない普通の社会人が、ボランティアで社会貢献することで、新たな可能性や価値観を見つけられる。そのきっかけづくりをしたい」。

玄道優子さんは、NGOやNPOからのボランティア募集を掲載する情報サイト「もんじゅ」を運営している。このサイトは、働きながら社会貢献をしたい社会人のためのボランティア情報を主体としており、現役で働く社会人が仕事とは別のフィールドでボランティアをすることでパラレルキャリアを形成しながら、社会にも貢献することを応援している。


パラレルキャリア支援サイト「もんじゅ」。

 

● ひとりでできることの限界を知る

玄道さんは、大学時代にNGOの事務局でボランティアを経験し、タイ、ミャンマー、フィリピンへのスタディツアーやワーキングキャンプに参加した。卒業後「途上国に関心のある人だけでなく、普通の人が世界を見るきっかけをつくる仕事をしたい」と考え、大手旅行会社に就職。旅行の手配を担当し、デスクワークで忙殺される日々を過ごすうちに、今度は「やはり現地に行って活動をしたい」という思いが強くなり退社して一人旅に出た。2 ヶ月間、インドではマザーテレサ施設、ネパールではJICAの施設や日本人が運営する幼稚園などを視察した後に、ネパールで現地の人と共に学校を建設するプロジェクトに参加することになり、帰国後寄付集めを行った。

「学生時代の渡航は、各団体のツアーに乗っかっていただけ。ひとりで現地に行ってみて、行けば何かできるわけではなかった。自分ひとりでは何もできないことを実感し、自分の甘さと浅さに気づきました」。

学校をひとつ建てて数十人が通うことができたとしても、その後の支援や他のエリアにも学校が必要であるなど、やるべきことは果てしなく存在する。学生時代は時間もあり自由に活動できたが、社会人になれば時間もできることも限られる。そこで玄道さんは、経済的な基盤を築くため、そして組織運営を学ぶために、経営全般が見渡せる規模の企業に入るための就活をスタート。同時に、「ひとりでできることの限界を知り、社会を変えるにはひとりでも多くの人の力が必要なことを実感しました。今まで国際協力や社会貢献に関心のなかった人が、関心を持って動いていける仕組みをつくり、社会問題を解決しようとする流れをつくらない限り、世の中を変えていくことは難しいのではないか」と考え、2008年4月、友人と3人でソーシャルマーケティングジャパンを立ち上げた。


メンバーのミーティングの様子。土日を中心に集まってうちあわせ。

 

●社会人がボランティアで力を発揮

玄道さんのように学生時代にボランティアやインターンをしていた人の多くは、気持ちはあっても就職するとボランティアの時間がなかなかとれない。

「仕事に慣れて少し余裕ができ、社会に関わる何かをしたいと思ったときに社会人が働きながらできるボランティア情報を調べるには、どうすればいいんだろう」。

そんな思いを持った3人が集まり、社会人向けボランティア情報を掲載するサイトを、『3人寄れば文殊の知恵』にちなみ、「もんじゅ」と名付けてスタートした。

「学生時代、NGOのスタディツアーでの報告書作成で、社会人にアドバイスをもらって、さすがだなぁと感じたことがありました。学生や定年退職した人たち以外に現役社会人ボランティアの力が加わると、活動の可能性が広がって内容も濃いものになるし、スピードも加わり、NGOにとって大きな成果につながるのを実際に見てきました。社会人のスキルを仕事とは別の分野でもっと活かして欲しい」。

パラレルキャリア支援サイト「もんじゅ」は、仕事と家庭を往復するだけでなく、会社以外で自分の可能性や領域をパラレルに広げられる場所として、NGOやNPOでのボランティア活動の内容だけでなく、団体紹介や体験者の声なども掲載している。また、関心のある人や体験者の交流会なども開催している。

現在の「もんじゅ」の運営スタッフは、平日はIT系コンサルタントとして働く玄道さんをはじめ、それぞれ別の企業に勤務したり専門職としての仕事を持っている。

「社会に貢献するには、自らNPOを立ち上げて全力で向かうのも一つの方法ですが、全員ができるわけではありません。関心のある一部の人や情報を積極的に取りにいける人たちが動いているだけでは、社会は変わりません。今まで全く関心がなかった人でも、このサイトを見て、楽しそう、ちょっとやってみようかな、と自分のできる部分からボランティアを始めることでも、それが集まれば力になっていくのだと思います」。


ボランティア参加者や希望者が集まる、 交流会イベントを数ヵ月に 1度、主催している。

 

●ボランティアで得られるもの

最近はボランティア志望者も増え、任意団体を立ち上げる人も増えている。その背景には、「企業の効率化が進み、会社で仕事するだけでは、自分が社会に必要とされ役に立っているかどうかの実感を得にくくなっているからではないか」と玄道さんは指摘する。

組織に組み込まれて自身を見失わないために、今まで培ってきた自分の能力や存在価値を確認するためにボランティアをする人も少なくないのだろう。

「サイトの募集情報には、スケジュールや期限が決まっていると応募しやすいようで、プロジェクト内容などが具体的で、異業種の人と交流してネットワークも広げられるメリットなど、ボランティアで何を得られるかが応募者にとって重要な要素」なのだそうだ。

「人との関わり方は人によって違うし、関心ある課題に対するアプローチ方法についても自分自身で考えていかないといけません。そのために、自分は何ができるのか、普段の自分の仕事を見直し、自分のなかのどの部分がそのプロジェクトで活かせるのかを考えるきっかけにもなります。自分の仕事の経験が、別の場所で社会に対して還元できる実感を得られれば、仕事にも社会にも役に立つわけで、本人にとっても大きな成長につながっていくと思います」。

オープンして3年目に入り、サイトの認知度も高くなり、関心のある人の中では“知る人ぞ知る”サイトには成長したが、今までボランティアに関心のなかった人にどう働きかけるかが課題だと玄道さんは言う。

「ボランティアは、無報酬ではありません。金銭をもらえないだけで、職場では得られない経験や知識を得ることができ、それは、大きな対価だと思うんです。ボランティアをすることで、得られる価値観や経験といった対価を見せられるように心がけ、普通の人がライフスタイルの選択肢のひとつとして、ボランティアを通じて社会に働きかけることが気軽にできるような流れにしていきたいと考えています」。

将来は途上国で活動する女性リーダーたちにインタビューを行い、現地の言葉や視点からの情報を発信していきたいという玄道さん。ボランティアをしたい人と、社会問題をテーマに活動する団体をつなげるには、両方の立場や思い、価値観を有機的に結びつけることが不可欠である。IT社会で簡単に情報を得るよりも、地道なボランティアの体験を通して実感が伴う満足感を得ることは、人生にとって大きな意味を持つ。一人ひとりの小さな善意を、社会に影響する力に導く玄道さんたちの活動が、硬直化した社会を底から静かに変えていくきっかけになるのかもしれない。

 

玄道 優子さん
NPOソーシャルマーケティングジャパン代表。明治学院大学卒業。学生時代にNGOでインターンを経験後、旅行会社に勤務。退社後、インド、ネパールでのフィールドワークを行い、友人2名と当団体を設立。現在は、IT系コンサルタントとして勤務しながら、社会人パラレルキャリア支援サイト「もんじゅ」(http://monju.in/)の企画運営、各種インタビューやイベントの実施など、社会と共に生きる人の生き方、働き方の情報発信と仕組みづくりに従事。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2012年1月号に掲載されたものです。

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