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遊びを通して子どもの心を育み、ケアする

08.20.2012 · Posted in Interview, 子ども

日本プレイセラピー協会理事 本田涼子さん

●“遊び”は、子どもの言語

「子どもにとって、“言葉”より“遊び”が言語なんです。自分の気持ちを、言葉でなく、遊びで表現します。その遊びで子どもが何を表現しているのか、大人が理解することが重要です」。

本田涼子さんは、遊びを通して行う『プレイセラピー』で子どもの力を伸ばすと同時に、子どもの心を癒し、親子の関係を改善するための活動を行っている。


被災地での研修の様子。(@日本ユニセフ協会)

 

● プレイセラピーとの出会い

派遣する「カトリック信徒宣教者会」に入り、2年半の間フィリピンで現地の人と暮らすプログラムに参加した。

「子どもの頃、アメリカとイギリスで過ごしたのですが、7歳の時のメキシコ旅行の際、横で赤ちゃんを遊ばせながら物乞いをしている母親の姿を見て、非常にショックを受けたんです。それがずっと気になっていて、途上国に関心がありました」。

当時、フィリピンは政情不安のため危険とされる地方村落部には青年海外協力隊でさえ入っていなかったが、本田さんは現地に一人で入り、学校で教えたり村落開発を手伝うなど、専門家としてではなく、できることをやってきた。その経験から途上国の開発について関心を持ち、コーネル大学に留学。卒業後、ユニセフの職員としてガーナで4年間過ごした。

「ユニセフは、保健・教育・衛生・栄養の分野で、子どものための緊急支援や人道支援を行なっていますが、政府と一緒にプロジェクトを動かすため、直接現地の助けを必要としている人と関わる機会が少ないんです。保健や教育そのものよりも、エンパワメントに関心があり、本人の持つ力をうまく発揮できるお手伝いをしたいという意識が大きかった。特に、ストリートチルドレンと関わっていると、生きる力、心理的な強さがすごく必要だと感じたんです」。

帰国後、アライアント国際大学/カリフォルニア臨床心理大学院(CSPP)で心理学を学び、そこでプレイセラピーに出会った。そして夫のタンザニア赴任に長女と次女とともに同行した。

「ガーナに行った頃、エイズは性的に乱れた一部の人が感染する病気と誤解され、語ることもタブー視されていましたが、タンザニアに行くと、どんな人でも親戚の誰かをエイズで亡くしている状態でした。多くのエイズ孤児へのケアが必要な現実を目の当たりにし、さらにプレイセラピーの可能性に関心をもちました」。

プレイセラピーを本格的に学ぶためには欧米に行かなければならない。それなら仲間同士で海外からプレイセラピーの専門家を招こうということになり、その頃、東京にいるプレイセラピストによって日本プレイセラピー協会が設立された。


被災地での研修の様子。(@日本ユニセフ協会)

 

●震災後の未就学児に対する心のケア

アメリカのプレイセラピー協会は、スリランカの津波後にメンバーを派遣、ハリケーン・カトリーナや9・11後の避難所でも活動していた。本田さんたちは、東日本大震災後、避難所のチャイルド・フレンドリー・スペースで被災直後の子どものケアをしようと動いた。

「子ども支援のNGOのいくつかにFAXしたところ、ユニセフからすぐに電話があり、避難所の子どもスペースで支援活動をするボランティアたちに、被災後の子どもへの対応や接し方について研修を行いました。また、震災で大きなショックを受けた子どもたちがどんな反応をするか、またそれにどう対応すべきか、幼稚園や保育園の先生対象の研修をやってもらえないかとユニセフから依頼されました」。

阪神大震災の時は、小中学校がスクールカウンセラー向けの支援策やパンフを充実させていったが、未就学児に対する被災後のケアについて体系だった動きがなかったため、日本プレイセラピー協会は未就学児に関わる幼稚園や保育園の先生、心理士、児童福祉課職員などを対象に研修を始めた。被災地では、親が動けるようにするため、保育園の再開に向けて行政の判断も早かった。各地域の複数の保育園の先生を対象に、また保育園や幼稚園に訪問し、昨年4月から今年の2月末までに、82回の研修を行い、280団体が参加した。

「おもちゃのなかでも、パトカーや救急車、兵隊さん、お医者さんキット、家族の人形、恐竜や蛇など、怖さや怒りを表現できるおもちゃ、希望をもたらすキラキラしたものなどは、子どもの気持ちを表現できる大切な種類のおもちゃで、プレイセラピーにはそういったおもちゃが必要です。でも、日本の保育園にはなく、アメリカから手配する事業も大変でした。研修後、こうしたおもちゃを研修に参加した園に送付したのですが、先生たちも被災直後、おもちゃを手にするだけで気持ちへの効果があることを実感されていました」。

本田さんは、今年4月から保育士向けの児童虐待の早期発見についての研修をするために、市の児童相談員と保育所を回って行っている。

「被災地ではDV(ドメスティック・バイオレンス)のリスクがあり、DVと児童虐待は関わりが深い。昨年10月に保育士や保健師向けに、DVのリスクのある家庭を見つけるポイントや注意点、対応についてのワークショップを行い、具体的なケースについて話し合いました。日頃子どもと接する保育士さんと一緒に回ることは、虐待の早期発見につながり、児童虐待防止に役立ちます」。

 

●子どもにとっての“遊び”の意味

子どもにとって重要な、“学び”と“遊び”。日本では、子どもの学習権を守るために学校に通わせるが、子どもの“遊びの権利”の概念は社会に浸透しておらず、子どもにとって“遊び”の重要性はあまり理解されていない。

「震災後、大人なら『大変だったね。怖かったね』と言葉で表現するところを、子どもたちは「避難だ~。危ない、逃げろ~!」という遊びで表現します。この遊びを大人が理解するかどうかが重要なんです。『子どもは、遊びが言語』ということを理解していれば、子どもの心の状態を理解して対応できるようになると思います」。

被災地では心のケアが叫ばれ、子どもに遊び場が必要といわれているが、子どもの遊び場の定義は明確ではない。ただ、おもちゃのある空間に子どもを置いておけば遊びが成立するわけでもない。

「トラウマ的な遊びをひとりで黙々とやっている子どもは、とても危険。そういう遊びは制限することも必要です。大人がそばにいて子どもが安心して遊びで表現でき、大人が『○○なんだね』と理解を示し、気持ちを受け止められたことを体験する、この一連の流れがとても大切なことなのです」。


プレイセラピーに使われるおもちゃ。

 

●親子の関係を改善する

本田さんは、カウンセラーとして、子どもを持つ人を対象にカウンセリングや、『子どもと関わるスキル』という親向けの講座も担当している。

「子どもが2~3歳になった時に、自分の子どもの頃のトラウマを思い出してカウンセリングに訪れる人はとても多い。子どもにどう接していいかわからない人に、『こんな関わり方をしましょう』といってもすぐにはできません。本人の抱えている心の問題を癒しつつ、子どもと関わるスキルを身に着けていくことで、虐待を未然に防げます」。

最近始めた親子相談では、親が抱えている問題が、子どもを通して出てくるケースが少なくないという。

「親子相談の場合、親が自分の問題について話せるようになり楽になってくると、子どもの様子がみるみる変わっていきます。親子のふれあい遊びなどの共同作業を行うと、親子の関係が改善されるのが手に取るようにわかります」。

今後は、児童相談所の心理司や児童福祉司、大学の幼稚園教諭志望者などを対象に研修を行い、プレイセラピーのアプローチができる人を増やしていくと同時に、カウンセラーとしての親子相談にも積極的に取り組みたいと本田さんは意欲を燃やす。

子ども時代の心の状態は、その人の後の人生に大きく影響する。だからこそ、子どもの頃の遊びは、とても重要だ。子どもにとっての遊びの重要性を周りの大人が理解し、遊びを通して子どもと向き合いながら成長を見守る社会になることを切に願う。

 

本田 涼子 さん
日本プレイセラピー協会(http://www.ja4pt.org/)理事。IFF・CIAP相談室
(http://www.iff.co.jp)カウンセラー。
日本ユニセフ協会東日本大震災緊急支援本部心理社会的アドバイザー。
上智大学卒業後、フィリピン派遣、コーネル大学農村開発学修士を修了後、ユニセフ職員としてガーナに赴任。帰国後アライアント国際大学/CSPP臨床心理学大学院で心理学を学び、夫の赴任先タンザニアに同行。2011年より日本プレイセラピー協会理事。東日本大震災後、被災各地で研修を行うとともに、子を持つ親や親子のカウンセリングを行なっている。

 

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2012年7月号に掲載されたものです。

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