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誰もが幸せと感じる社会のための考える機会を提供

03.10.2011 · Posted in Interview, 子ども

子どもHAPPY化計画 代表 佐藤 俊恵さん

●日本の子どもの現状を伝える

「子どもの相対的貧困率は14.2%、ひとり親家庭の相対的貧困率は54.3%(2009年秋厚生労働省公表)。ひとりひとりの幸せを測ることはできないけれど、幸せと感じる社会的な尺度がなければ、人は幸せを実感できないかもしれません。今、その社会的な尺度が、なくなってきているんじゃないでしょうか」。

『子どもHAPPY化計画』は、2009年には勉強会、2010年は様々なスピーカーを招いたワールドカフェを開催し、日本の子どもの現状について情報を発信しながら、多様な価値観を認め合いつつ、人々が幸せな社会をつくるためにはどうすべきかについて様々な視点から考える場を提供している。

●将来への危機感を持つ人が集まる

佐藤俊恵さんは、2009年4月に開催された「脱!日本の子どもの貧困サバイバル大作戦」シンポジウムにボランティアとして参加した。シングルマザーで1人で子どもを育てる大変さを身にしみていたが、佐藤さん自身は運良く今の仕事に就き、息子をなんとか育てることができた。しかし、児童扶養手当、母子・寡婦福祉資金貸付、奨学金などの支援制度の仕組み自体が本当に支えになっているか疑問に思っていた。

シンポジウムは1回で終わる予定だったが、「子どもの貧困問題は単発で終わるような話ではない」という意識を持ったメンバーが、勉強会を継続しようと、この会を立ち上げた。メンバーは全員ボランティアで、20代~40代の様々な職業の男女約10名。2009年は、児童養護施設の子どもを支援する団体や子どもからの相談を受ける団体などの代表を招き、スクール形式で5回開催した。

ワールドカフェの前のプレゼンテーション(講演)の様子。スピーカーは、NPO法人理事長や文部科学省担当者など様々。

「当初、会の名前に《子どもの貧困》を入れようと思ったのですが、若い人たちが《貧困》を名前に使うと、それだけでネガティブだから止めよう、と。失われた10年に就職した人たちの危機感は強く、将来への不安がはるかに大きい。『子どもHAPPY化計画』という名前で、《化》とつけること自体”Happyじゃない”ということを若いメンバーが感じていたんだなぁと後になって気づきました」。

勉強会式で続けていくべきかどうか半年間メンバーで議論を重ねた後、2010年6月に講演と講演テーマについて参加者が話しあう2部構成のワールドカフェスタイルに移行した。
「第1回目は、子どもの貧困が少ないといわれる『北欧の自治』をテーマにしたところ、意外に好評で驚きました。それほど、この問題に注目している人が多いことを実感しました」。

●自立のための支援の在り方

子どもの貧困を解決するために、「◯な子どもへ、◯を」といった具体的なミッションを掲げて活動している団体が多い。一方、『子どもHAPPY化計画』は、直接的支援を行わず、多様な価値観や視点を取り入れた意識の集合体であるため、自分のなかの問題意識について調べていくうちに、知らない間にマクロ的思考になっていくと佐藤さんはいう。

「日本での貧困問題を考えるとき、《かわいそう》という定義づけはやめようとメンバーで話しています。アジアやアフリカのような生命を脅かす状況は、かわいそうかもしれないが、日本のような相対的な貧困は誰かと比べているので、《かわいそう》という先入観があると、解決策を考える視点がズレてしまう」と指摘する。格差というネガティブなことだけ取り上げるのではなく、現実を客観的に分析することが大事である。

ワールドカフェの様子。年齢や立場を超えてテーマについて話し合う。リラックスした雰囲気で会話ができるようテーブルにお菓子や飲み物も用意。

昨年、佐藤さん参加した、他団体の子どもの貧困を考えるシンポジウムでは、「虐待、いじめ、自殺、不登校、児童への性犯罪・・・どの団体も支援をしてもらいたいと主張する。すごく大変なことはわかるけれど、みんなが一度に、助けて!といっても国の予算には限りがあるし、制度もすぐに整備できない。限られた予算は一部にしか配れないので、結果的に取り合いになる」。どこかに支援がいくことで逆に、格差が根深くなっているのだ。

「アフリカやアジアに対して欧米や日本が支援し続けているが、ODAでつぎ込んだお金で、特定の人だけが潤い、本当に困っている人までには行き渡っていない。つまり、これらの支援は、結果的に自立を妨げているのではないか。喉が乾いている人がいたら水をあげればいいが、井戸を掘る方法を教えてあげなければ、永遠に水を与え続けなければいけない。また、与え続ければ、自力で得る方法を考えなくなり、ずっと自立できないという悪循環に陥ってしまう。上から下へといった片方向の支援はそろそろ止めて、支援の仕組みそのものの在り方を見直し、双方向の支援が必要ではないか。その人の価値観を否定するような支援は、その人自身を否定することにつながる。支援を受けた側が、社会の一員なんだと思えないと、この悪循環から抜け出られない」と佐藤さんは主張する。

●幸せな社会づくりをめざす

最近の子どもを取り巻く状況は、貧困だけでなく、虐待や犯罪など、「全体的に子どもの環境が劣化してきている」と佐藤さんはいう。また、それを提供している大人が多すぎることが根本的な問題でもある。「人を育てるということは今の利益だけではない。10年後、20年後に社会全体が損をしないように考えないと社会は変わらない。今はセーフティネットもとりあえず働いているし、生活自体がなんとかなっているから、自分のこととして考えられない人も多いが、このままいくと社会保障は破たんする。早急に見直すべきだし、それは、今、困難な状況にない人自身の問題でもあるし、ひとりひとりの責任だと思います」。

佐藤さんがこう考える背景には、シングルマザーで苦労して育てた我が子が生きる社会が、不幸になるのを黙って見ていられない、せめて10年後くらいの心配はしなくて良い社会をつくるのが親としての義務だという本音がある。「我が子が、就職できるか、結婚できるか、生活できるか、ずっと心配し続けないといけないなんて、親である自分も不幸だなと思うんです」。

『子どもHAPPY化計画』は、具体的な事例に関わってないから、冷静にデータを分析したり、客観的に伝えることができ、広く社会を見渡し、考える作業をする貴重な場でもある。ただ「具体的な目標がなく成果達成型でもないため、常に問題意識を持ち続けるモチベーションを保つのにひじょうにエネルギーが必要なんです」と難しさもにじませながら、それがこの会の使命であると感じているようだ。

2009年12月に開催されたワールドカフェクリスマスVerでの「夕やみライブ」。視覚障がい者のMizuhoさんが奇跡の歌声を披露。

「地域関係がうすくなっている昨今、突然、みんなで話し合いませんか?といっても、友達以上の人は集められない。そういう点で、ワールドカフェは、講演を聞いた後、自分と違う世代、違う職業や立場の人同士で話しあうことで、多様な意見の存在を知るだけでなく、気づきが残ることで、種まきもできる。子どもの問題だけでなく、地域活動の一環にしようと参加する人もいます」。

こういった場に自然に人が集まるのは、今の制度、国や政治に頼るだけではダメだと感じ、自分たちでなんとかしないといけないという危機感を感じている人が増えている証拠だろう。

「マグマみたいにたまっている、私たちの潜在能力みたいなものが発揮されるほうが、より社会を大きな動きで変えられると思うんです」という佐藤さんの言葉は、最近のチュニジアやエジプトの状況を見れば実感できる。すでに時代とあわなくなってきている既存の仕組みを超え、多様な価値観を認め合いたいという意識にめざめた人たちが、このような場で交流を深めることから、新たな社会の光が見えてくるのだろう。

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佐藤 俊恵さん
子どもHAPPY化計画
http://www.kodomohappy.com/)代表。消費生活アドバイザー。2009年4月、「脱!日本の子どもの貧困サバイバル大作戦」にボランティアとして参加。2010年より、ボランティアグループである子どもHAPPY化計画のまとめ役に。
『子どもHAPPYな社会をイノベーションする』ため、ワールドカフェを開催(隔月)するほか、ブログなどを通じ、子どもの現状について、タイムリーに情報を発信。問題点を冷静に分析し、解決策を提案するシンクタンクとしても活動している。

Int’lecowk(国際経済労働研究所発行)2011年3月号に掲載されたものです。

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